本研究の目的は、中小事業者の消費税に係る事務負担に配慮するために設けられた簡易仕入税額控除制度(以下「簡易課税制度」という)の問題点と限界を明らかにした上で、それに代わる特例措置を提言することであった。 まず、現行の簡易課税制度の枠組みでは、いくら改正を重ねても根本的な問題解決を図ることができないことを同制度の沿革と問題の本質を踏まえて検証した。 各事業者は消費税を商品やサービスの販売価格に上乗せして販売先に順次転嫁することが予定されているが、実際上、経済的に弱い立場にある中小事業者は消費税の全部又は一部を転嫁できずに自ら負担し、いわゆる損税が生じることがある。一方、中小事業者は簡易課税制度のみなし仕入率を適用することによって、いわゆる益税(消費者が負担した消費税の一部が国庫に納められずに事業者の手元に残ってしまうこと)が生じる場合がある。ただし、その益税を享受できるのは、一部の中小事業者に限られる。 そこで、本研究では簡易課税制度の廃止論を単純に導くのではなく、同制度の創設趣旨とは別にそれが非公式に果たしてきた実質的な機能、すなわち、中小事業者の転嫁困難性によって生じるいわゆる損税の負担を解消又は軽減しているという機能を重視し、それを正当な目的の一つとして認める形で、公平で簡素な仕組みを再構築することを主眼とした。本研究の成果は、消費税の課税ベース(付加価値)の主要部分を占める人件費に着目し、公平で簡素な特例措置の骨子を示したことにある。
|