研究課題/領域番号 |
15K12969
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
森元 拓 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (50374179)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 上杉慎吉 / 美濃部達吉 / 天皇機関説論争 / 天皇機関説事件 / 天皇主権説 / 国体憲法学派 |
研究実績の概要 |
本年度は、上杉慎吉の先行研究を精査した上で、1.美濃部達吉の憲法学との対比と2.戦前日本における憲法学全体における上杉憲法学の意義について考察・検討を行った。 1.については、特に、美濃部憲法学と上杉憲法学との比較研究のみならず、両者に影響を与えたドイツ第二帝政期(特に1900年代)における公法学者(特にG.イェリネック)の影響やイェリネックと家産国家論者(ザイデルやハラー)との論争の影響にも留意しつつ、上杉憲法学及び美濃部憲法学の再定位を行った。更に、このような視点から天皇機関説論争の意義についても考察範囲を広げた。このような観点から上杉憲法学の再定位は、美濃部憲法学の比較及びドイツ公法学との比較といういわば同時代的な「横の比較」のアプローチである。この研究成果の一端は、森元拓「国法学と立憲主義」森村進編著『法思想の水脈』(法律文化社、2016年)、138-152頁として結実している。 2.については、いわば歴史的な「たての比較」のアプローチである。天皇主権説を説いた穂積八束の忠実な後継者とされる上杉憲法学が、戦前日本の憲法学にどのように展開していったかに着目し、「上杉後」(上杉は1929年逝去)である天皇機関説事件(1935年)や新体制運動における上杉憲法学の影響関係、昭和10年代に新たに勃興した里見岸雄等の国体憲法学派との比較を行った。この研究は、大野達司・吉永圭・森元拓『近代法思想史入門―日本と西洋の交わりから読む』(2016年、法律文化社)の企画や執筆に生かされている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況としては概ね順調に進展していると考えている。 まず、研究に着手して確信したのは、本研究課題の射程は、予想よりもはるかに広く深いものであるということである。それは、上杉憲法学の再構成や可能性を探ることが、とりもなおさず戦前日本の憲法学の再構成を促すものであり、それが現代日本の立憲主義の再定位(あるいは積極的反省)を促すものであると判ったからである。この意味で、本研究が対象とする範囲は上杉と美濃部の憲法学に留まらず、戦前日本の主要な公法学者(黒田覚、佐々木惣一、筧克彦、里見岸雄等)に拡大しつつある。その意味で、本研究課題がもたらすものは想像以上に豊かな地平が広がっていると考えている。初年度にこのような感触を得るに至ったのは大きな成果であるし、この意味で、本研究が「当初の計画以上に進んでいる」ともいい得る。 しかし、本研究の主要検討課題の一つである「上杉憲法学と「近代の超克」の検討」については、目下のところ十分に着手しているとは言い難い。「近代の超克」論自体がいまだにその評価が揺れていること、また、「近代の超克」論が必然的に西洋と東洋の思想史・哲学史を俯瞰する視点を要求することから十分な検討に至っているとは言い難い。 以上の点を総合し、本研究課題の進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、上杉慎吉の憲法学の再構築・再評価という課題によりスタートしている。しかし、「現在までの進捗状況」でも述べたとおり、本研究の射程は想像以上に広く、その地平からは豊かな収穫を期待できる。従って、ひとり上杉のみならず、また当初予定していたような上杉-美濃部の論争の検証に拘泥することなく、戦前日本の憲法学全体を視野にいれ、上杉憲法学やその系譜をひく者達の意義を検討していきたい。従って、本研究は、上杉、美濃部に留まらず、これまで十分に検討されてきたとは言い難い黒田、佐々木、筧の各憲法学の意義の検討、また、これまでは等閑視されてきた里見岸雄等の国体憲法学派に関する理論的検証をも含むものとする。今後は、このような意識のもとで本研究を推進していきたい。なお、このように研究対象を拡大することは、より広い範囲から上杉憲法学を再定位することに直結するものであり、上杉憲法学の研究を放棄するものではないことは言うまでもない。
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