研究課題
本年度は、第1に、責任の実態と、それに対する人々の認識という、責任の二側面を並行的に検討するために、少年による非行・犯罪の責任に焦点を合わせて検討を進めた。責任の実態にかかわる研究としては、アメリカにおける少年への刑事責任を減縮させた近年の一連の連邦最高裁判例、およびそれに影響を与えたといわれる脳神経科学の知見が注目を集めている。それらの研究に加え、日本における非行少年の社会的負因に注目した研究をフォローすることで、少年の責任の実態に注目した研究動向の把握に努めた。他方で、人々の認識がそれらの研究で示された少年の責任の在り方と一致するものではないことは、少年法に関わる各種世論調査によっても明らかである。そこで、人々が少年による非行・犯罪の責任について推測する際にどのような要因が背後にあるのかを、責任の実態的側面とは別に明らかにする必要があり、社会心理学的な研究を踏まえつつ、その規定要因を探索的に特定する作業を行った。第2に、別途行われた一般人と法律専門家を対象とする法人に対する刑罰についての調査結果データの再分析を継続した。それによると結局、人々は、刑事罰と民事賠償と、行政処分を十分には識別していないし、また、抑止と応報も識別して捉えてはいない。つまり、拡散的で素朴な刑罰観に立っている。そのような立場では、法律的な意味での責任主義という洗練されたアイディアが人々に生まれる余地はないであろう。極端に言えば、それよりもむしろ、人々は素朴な因果応報の世界に住んでいるのではないかということである。つまり、人々にとっての「責任主義」の概念は、あったとしてもラーナーが概念化した公正世界信念と結びつくような概念なのである。
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J. Liu, & S. Miyazawa (eds.) Crime and Justice in Contemporary Japan
巻: Springer ページ: 275- 290
唐沢穣、松村良之、奥田太郎 編著『責任と法意識の人間科学』
巻: 勁草書房 ページ: 118-127
指宿信・木谷明・後藤昭・佐藤 博史・浜井浩一・浜田寿美男(編) 『シリーズ刑事司法を考える4 犯罪被害者 と刑事司法』
巻: 岩波書店 ページ: 48-64
上石圭一・大塚浩・武蔵勝宏・平 山真理(編) 『宮澤節生先生古稀 現代日本の法過程(下)』
巻: 信山社 ページ: 259-277
北大法学論集
巻: 68(4) ページ: 908-918