研究課題/領域番号 |
15K12976
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
金子 宏直 東京工業大学, 大学院社会理工学研究科, 准教授 (00293077)
|
研究分担者 |
川和 功子 同志社大学, 法学部, 教授 (70295731)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 知的財産権 / 著作権 / 倒産 / 担保権 / 民事再生手続 |
研究実績の概要 |
知的財産権のうち,支分権の束と概念される著作権を中心対象として,著作権権利者の経済的な破綻時期における権利処理を理論的に検討することを主に行った。著作権には文化庁への登録およびプログラム著作物の登録機関への登録制度という登録制度があり,権利譲渡,排他的利用権,担保権の設定等が登録という対抗制度が存在する。しかし,著作権は著作物の創作と同時に発生するため,登録制度が利用されるのは著作権のごくわずかにとどまっている。そのため,著作権者が必ずしも明確ではないまま,著作権利用がなされ,利用権のみが複雑に存在するという事態も存在し得る。そして,著作権は著作権者の倒産,特に,法人の著作権者の倒産の場合には,権利帰属主体が消滅するため,著作権者が存在しないことで著作権が消滅する場合も少なくない。 そして,著作権登録制度と並行する形で著作物の利用権管理団体が複数存在しており,これらの管理団体に登録された著作物に関しては,少なくとも著作権者自体が不明になることはない。著作権管理団体の利用権管理契約は著作権の対象となる著作物別に利用者団体が分かれており,契約の法的性質に関して2種類に大別されている。このうち,信託的譲渡契約の場合には,著作権者の倒産等により著作権の利用自体が妨げられることはないが,著作権自体の消滅に対する保護にはならない。そこで,利用権を含めた契約関係が適切に維持される仕組みが必要であることが分かる。契約関係の維持には,清算型の倒産処理手続である破産手続においては,知的財産権の利用関係の継続は,極めて困難になる。これに対して,民事再生手続の利用を広く認めることにより,契約関係の再交渉の機会を提供する可能性が広がることを検討した。この検討の結果は,「知的財産破産-著作権の利用関係処理を中心に-」において論述を行ってた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
著作権は権利の束と称されるように,利用形態が多様であり,また,技術革新,文化的変化により新しい利用形態が生まれる点で,他の知的財産権とは異なる点が多い。日本における倒産を契機とした事業譲渡の際の知的財産利用契約の事例の検討を行った。しかし,法的手続きとしての倒産手続が開始される前の段階における,事業譲渡の際に行われる知的財産利用関係の処理については調査研究が及んでいない。これらの点は,次年度以降の継続検討課題とする予定である。 将来発生し得る権利を対象にした利用権に関する契約がみられるが,このような契約の有効性,特に,倒産手続きとの関係については,実務上見られる,著作権管理団体の契約の有効性を前提に議論を行ったが,これらの契約については,倒産法上の有効性についてより詳細な検討が必要であることが分かった。 本年度は倒産手続のうち民事再生手続における著作権を中心とした知的財産権の処理について,倒産処理手続を知的財産利用関係契約の再交渉を行う機会として利用することの可能性については検討を行うことができた。 これらの点を踏まえ,再生型倒産手続の開始要件の解釈についてより詳しく検討をする必要があると考えるようになった。具体的には,各倒産手続と手続開始要件との関係を整理し,知的財産利用の継続がどのような状況では可能であるのか,困難であるのか等について次年度以降の検討課題の中に組み入れる必要性が分かった。 これらの点を踏まえ,ライセンス契約の倒産手続きにおける処理を,主に倒産処理法分野での大きな論点とされる,いわゆる,双方未履行契約の処理,解除か履行選択権の問題としてのみとらえるのではなく,知的財産権の譲渡、特に包括的な譲渡が重要な意味をもつ事業譲渡が重要であることを確認できた点において,本研究の初期段階の検討課題について考察でき,おおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
日本法について,著作権の利用権を中心とした知的財産権,特に複数の知的財産権の利用関係が組み合わされた権利関係の融合的な倒産処理の利用についてより詳しく検討を継続する予定である。倒産処理の方法としての事業譲渡について,知的財産権利用者の権利保護の視点を取り入れて,考察を行う予定である。今年度は,まず,より詳しく日本法における事業譲渡の法的理論および実務上の問題の検討を継続する予定である。また,著作権の利用権は,業務の国際化により,国内法の問題にとどまらないことに考慮が必要である。そこで,比較法的な検討の対象として,米国を中心として,事業譲渡における知的財産の利用権の処理について考察を行う予定である。さらに,個人的な著作権の利用とコンテンツビジネスにみられる大規模事業との間の相違点についても考察の視点に加えていく予定である。これらの点に関しては,エンターテイメント法分野の研究も盛んになっており,これらの分野における事業譲渡の内容もより詳細に検討を加えていく予定である。また,近時これらの法分野については、研究者と実務家による新たに研究学会等の設立も進められており,これらの研究活動動向も参照しながら研究調査の対象を調整していく予定である。 本年度は,比較法の中心対象である米国に関しては,知的財産権の専門家である米国人研究者からの助言をもらいつつ,研究を進める予定である。この点に関しては,6月ないし7月に,具体的な検討課題について,渡米を含めて,共同研究の経験のある研究者と実際に情報交換を行う予定である。 また,本年度後半には,英国を含めたヨーロッパの法分野における知的財産と事業譲渡を利用した倒産処理との関係についても,こららの国における関連する基本的な法制度について文献調査を中心つつ,どのような実務上の問題が議論されているのかについても検討の対象に加えることを予定をしている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
注文予定の書籍が再版未定などで入手が不可能になったための差額として生じたものである。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の書籍資料等の際に関連する内容の別の書籍等の購入に充てる予定である。
|