研究課題/領域番号 |
15K12976
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
金子 宏直 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 准教授 (00293077)
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研究分担者 |
川和 功子 同志社大学, 法学部, 教授 (70295731)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 著作権 / 倒産処理 / 事業譲渡 / 人工知能 / コンテンツ |
研究実績の概要 |
本年度は、日本の著作権利用を中心とする関連事項を研究の対象とした。情報の入手先がインターネットを中心として、万人が著作物の発行者になれるフェイスブック、ユーチューブ等のソーシャルメディア等の普及により、従来の紙媒体の出版社の廃刊が続いた。これらは電子書籍など電子媒体への転換の遅れよりも、知的財産権対象の著作物を利用するプラットフォーム(例えばモバイル機器とSNSの組み合わせ、コンテンツ配信サービス)の変化に、従来の著作権者が対応できずに清算することがみられる。出版物の雑誌に関しては、ブランド衣料メーカーのように従業員等の設立会社によるブランドの維持がみられないことが分かる。 平成28年は人工知能が棋士に勝ち、小説を作成するなどの話題になった。人工知能の利用がコンテンツの制作、提供の現場に導入されてきていることに関連して、人工知能の作成したデータやコンテンツが、人による創作物を保護する著作権により保護可能であるかについて、英国のメディア法の研究者と米国の知的財産法の研究者と研究会を開催し、著作権を中心とする日本の知的財産権の研究者との情報交換を行った。EUでは人工知能による活動の法規制が整いつつあるとの情報が得られた。また、米国法では、人口知能による創作と著作権との関係に加えて、技術の特許法上の議論が盛んになっているとの情報が得られた。従来、創作活動は人が行うことを前提としていた。現状では、人工知能に作品を制作させるためには、何らかの人の関与が必要な段階であり、この人に著作権を結びつけることは可能である。ただし、著作権の侵害を判断するには、人工知能による著作権侵害を想定できるのか問題が残ることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
知的財産権を主な資産とする者のうち、著作権が主な資産である者は、倒産手続の一環として事業譲渡を必ずしも行わないようで、検討の題材となる事例を見つけるのが困難である。例えば、有名な出版社が倒産した場合でも、有名な映画作品も原作者監督を著作者とする登録されており、このことは,倒産手続開始前の段階における,事業譲渡という形での知的財産利用関係の処理を中心に検討を加えることを困難にしている。これらの点は,具体的な例に絞って検討する必要がある。 本年度は、様々な分野への人工知能の応用が注目された。その中で、小説や絵画の作成を人工知能が行う可能性が実例として示されるようになった。そこで、人工知能を利用したコンテンツの作成と著作権や特許権との関係について、この分野の研究を行っている外国人研究者との意見交換、情報収集を行った。人工知能のプログラムの作成者、データ編集者、サービスの提供者が関係しているが、各々がどのような知的財産権に係っているか権利帰属主体になるのか検討が必要であることが共通理解された。これらの観点については、英国、米国でも法的整備の必要性が認識され、今後の日本における研究の参考になることが分かった。 コンテンツの作成方法、流通の担い手が従来のメディアを担う大規模事業者であった。これに対して、個人を取り込んだコンテンツ作成流通が広くみられるプラットホームに変化しつつある。倒産法上の視点から、事業主体の状況が、知的財産利用の継続がどのような状況では可能であるのか,困難であるのか等について検討する必要があることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度、次年度を通して、権利関係処理について知的財産権のうち、著作権を対象とするものに絞ることとし、また、著作権管理団体の契約の倒産法上の有効性について検討を深める予定であった。この点、出版社等の事業譲渡という形の事例による検討が十分に行えなかった。最終年度の今年度は、著作権管理団体をコンテンツ流通のプラットフォームの一つと位置付けて、より一般的な議論として検討を進めていく予定である。 日本の著作権の利用権を中心とした知的財産権,特に複数の知的財産権の利用関係が組み合わされた権利関係の融合的な倒産処理の利用について、具体的なモデル事例のようなものを設定して、検討し整理する予定である。倒産処理の方法としての事業譲渡について,知的財産権利用者の権利保護の視点を取り入れ際に、エンドユーザーと事業者ユーザーとの違いを考慮する予定である。 本研究における比較法的な検討として,英国法(EU法)と米国法を中心として,倒産に関連する事業譲渡やコンテンツ作成流通のプラットフォームの移行も視点に入れて、知的財産の利用権の処理について考察を行い、議論をまとめる予定である。その際に、米国における倒産手続きにおける、著作権等の知的財産契約の譲渡について、基本的な議論をあらためて整理することで、理論的な問題にあらためて視点をむけより詳細に行う予定である。 最終年度として本年度は、倒産処理手続の仕組みを応用した知的財産利用関係の簡略化の可能性について検討を加えるという本研究の目的にかなうように検討結果をまとめる。これまでの検討結果をコンテンツ利用関係の事業譲渡等を全体の流れの中での位置づけが分かるようにまとめる。また、今後さらに広まる人工知能を利用したコンテンツ制作や新しい流通プラットフォームにおける課題についても整理を行っておく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入物品の価格が当初の価格より低額になったため残額として残ったものである。
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次年度使用額の使用計画 |
物品購入費に組み込んで必要な書籍等の購入に充てる予定である。
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