研究課題/領域番号 |
15K12983
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
高林 龍 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (90277765)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 追及権 / 欧州連合 / 美術の著作者 |
研究実績の概要 |
当初の計画よりも早い段階ではあるが、本年度中に国際シンポジウムの開催が可能となったため、2016年3月に追及権に関わる国際シンポジウムを開催した。本シンポジウムは、「日本における追及権導入の可能性-欧州の見地から-」をテーマとして、追及権研究の第一人者である、パリ第一大学Frederic Pollaud-Dulian教授、並びに、ブレイクモルガン法律事務所Simon Stokes弁護士にご講演をいただき、世界初の追及権導入国であるフランスの見地と2006年以来新たに導入を果たしたイギリスの検討課題等について議論した。その後、著作権協会国際連合(CISAC)事務総長のGadi Oron氏より、現在CISACの取り組んでいる追及権を推進するプロジェクト等について解説いただき、その後、本研究の協力者である早稲田大学招聘研究員小川明子氏による日本の状況についての説明が行われた。 同シンポジウムにおける後半においては、芸術家の立場から日本の現行著作権法の問題点を引き出すという観点から、ラウンドテーブルが行われた。美術家の福王寺一彦氏、写真家の永嶋勝美氏、日本美術著作権協会の吉澤昭博氏、日本写真家協会の堀切保郎氏によって、それぞれの立場からの問題点が議論された。 本研究の最終目標は、如何なる形で導入することが望ましいか、あるいは、導入による如何なる影響が考え得るかといった観点を含む、日本における追及権導入の是非を検討するという点にある。本シンポジウムは、欧州が行ってきたこれまでの状況を再検討し、日本への対応を検討する際に極めて有用である。同時に、日本の芸術家や管理団体の率直な意見を聞く機会を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は、我が国における著作権法制度の可能性について検討していくと同時に、我が国では導入されていない追及権とはいかなる権利であるかについての調査を行っていくことを予定していた。そのためには、諸外国の導入事例から検討し、また、世界初の導入国であるフランス及び、欧州最大の美術市場を有しEU指令によって追求権を新規に導入したイギリスを参考にして、法制度のあり方及びその影響を評価・分析することを予定していた。しかし、2016年3月に国際シンポジウムの開催が可能となったため、英仏両国の追及権の第一人者である学者及び実務家を招聘し、各国における法制度と欧州指令とのかかわりを中心とした議論を行うことができた。 さらに、我が国の著作権法の保護に関しては、実際にその法制度によって直接的な影響を受ける芸術家あるいはその関係団体にも参加してもらい、同シンポジウムで議論を行うことができた。このシンポジウムが初年度内に開催できたことで、次年度以降の研究は加速すると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
(今後の推進方策)初年度の研究成果を基に、我が国で追及権を導入することが、どのような影響をもたらすかという点について検討を行うと同時に、欧州諸国をはじめ、2009年に導入されたオーストラリア、これまでにもいくつかの法案が議会に提出されているアメリカ等を参考にした、追及権試案のたたき台となる原案を作成していく。また、原案作成の基礎として、保護対象となる美術の著作者におけるインセンティブ、予想される利益、リスク等を分析し、他方で支払い義務が課される等の影響を受けるその他の利害関係者(美術品販売関係者(オークション会社、ディーラー等)、著作権管理団体、美術館等)の利害に関する調査も行う。尚、本原案は、最終年度における検討の出発点でもある。本研究の一つの到達点として、この原案をもとに、早稲田追及権試案を完成させることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度中にシンポジウムの開催が可能となったために、平成28年度予算の一部を前倒ししている。しかし、その差額については、平成28年度予算として使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
前回のシンポジウムは、著作権協会国際連合(CISAC)との共同開催であり、2017年初頭には再度の共同シンポジウムが予定されている。今回の差額と本年度予算を合わせて使用する予定である。このシンポジウムでは、前述の追及権試案(原案)を公表したいと考えている。
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