研究課題/領域番号 |
15K12992
|
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
今里 滋 同志社大学, 政策学部, 教授 (30168512)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 連帯経済 / 社会的協同組合 / 地域通貨 |
研究実績の概要 |
文献研究としては、池本幸生他(編著)『連帯経済とソーシャル・ビジネス――貧困削減、富の再分配のためのケイパビリティ・アプローチ』(明石書店、2015)や本研究の協力者である廣田裕之氏の新著『社会的連帯経済入門――みんなが幸せに生活できる経済システムとは』(集広舎、2016)等の著作を読み込んだ他、連帯経済の哲学的基礎理論としてアマルティア・センやマーサ・ヌスバウムの「ケイパビリティ・アプローチ」に注目し、文献収集を進めるとともに、連帯経済の実践におけるその理論的意義について考察を進めた。 平成28年9月には韓国世宗市で開催された世宗特別自治市・韓国行政自治部共催の「韓日中コミュニティ・ビジネス・カンファレンス」において「コミュニティ・ビジネスの理論と実践」と題して基調講演し、その後のシンポジウムのコーディネーターを務めるなど、連帯経済の理解と促進に関する国際交流を行った。 現地調査としては、平成29年9月に、連帯経済による地域力再生を進めるスウェーデン・イエムトランド県にあるトロングスヴィーケン・コミュニティ、イエムトランド県の中心都市エルテルスンドの市街地にある中央大学に拠点を置く起業支援団体、クムパニオン・イエムトラン、ストックホルム郊外にあるBASTA!という、薬物中毒者や薬物関係の犯罪で受刑したことがある人々のリハビリテーションをソーシャル・ビジネスとして行っている労働統合型社会的企業を訪問調査した。 また、スットックホルムにおいて、欧州における社会的協同組合等の研究で世界的に著名なヨハナン・ストルイヤン(Yohanan Stryjan)教授にヒアリングを行った。 その後、スペインに移動し、ジローナ大学のジョセフ・ルイス教授を訪問し、連帯経済を促進する新たな地域通貨システムについてヒアリング調査を行うなど、その他関連団体を訪問調査した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の「今後の研究の推進方策」の内、理論・歴史研究については、空想社会主義者の議論を「連帯」の観点から再検証する作業は、ローバーと・オーウェンについては行えたものの、サン=シモンやプルードンについては着手することができなかった。また、因果応報論を基調とする仏教思想に「連帯」の理念とその実践を、カトリシズムの教義に内在するヒューマニズムとの対比において、探求する作業も十分には進捗していない。 建国大学校の金才賢教授ら韓国の連帯経済の研究者へのインタビューは2016年度は実現できなかったが、「韓日中コミュニティ・ビジネス・カンファレンス」において韓国や中国の実践家と交流できたことは特筆すべき成果である。また、連帯経済を基盤とした地域づくりを約20年かけて実践してきた韓国ソウル市麻浦区にあるソンミサン・マウルを二度にわたって訪問調査し、ヒアリングや資料収集を行ったことは研究上、大きな意義があった。 スウェーデンでの現地調査では、連帯経済的な地域づくりで世界的な注目を集めるトロングスヴィーケン・コミュニティを訪れ、そのリーダーとして活動を牽引してきたニルス・ニルッソン氏に長時間に及ぶヒアリングを行え、資料の提供を受けたことで、同国における社会的協同組合の伝統を背景にした連帯経済の進展を研究する上で多大な成果を得たと言える。 社会実験では、2016年に熊本地震で大きな被害を受けた熊本県阿蘇地方を同志社大学政策学部学生有志とともに訪ねて、特定非営利活動法人ユナイテッドアースの被災地支援活動に参加し、瓦礫の撤去や被災家屋の清掃等の作業に従事し、連帯経済的視点からの復興支援活動の意義について実地に検証できた
|
今後の研究の推進方策 |
2017年度は本研究の最終年度になるため、これまでの理論的・歴史的研究と欧州や韓国での現地調査、そして国内における連帯経済的活動の実践例の調査を踏まえて、総括的な検討を行う。 まず、理論的・歴史的研究においては、キリスト教(カトリック)の教義に内在するヒューマニズムと因果応報論を基調とする仏教思想とを対比させるなど、連帯経済の思想的基盤を追究する。その際、山室軍平や賀川豊彦などの、戦前の日本社会におけるキリスト教社会主義の立場からの連帯経済的な理論と実践についても言及したい。その作業を踏まえて、新自由主義とグローバリズムによって拡大・深化しつつある世界的な貧困と格差を克服できるオルタナティブな経済理論および実践としての連帯経済の可能性について検討する。 諸外国の事例研究としては、これまで現地調査を行ったポルトガル、スペイン、スウェーデンおよび韓国について、連帯経済型の活動事例を記述し、その意義について検討する。また、そうした事例研究の一方で、社会的企業育成法を導入した韓国や国や州の憲法に連帯経済の理念を取り入れたスペインやポルトガルの例を引照しつつ、連帯経済の制度設計のわが国における可能性についても検討を加える。
|