本研究の目的は個々の研究枠組み(安全保障論・警察行政法・出入国管理行政論・水産政策論等)を超えた包括的な枠組みをもとに「日本の国境警備論」を構築することであった。そこで研究を進めた成果として、①防衛の観点から考察した場合、周辺海空域における安全確保や島嶼部に対する攻撃への対応などがあげられるが、一部の国境地域を特化とした施策は存在しないこと、②領海警備の観点から考察した場合、ロシア・韓国・北朝鮮・中国・台湾との国際問題があるが、近年常時問題と継続しているのは尖閣諸島周辺海域のみであること、③出入国管理の観点から考察した場合、近年の外国人入国者の急激な増大に伴い、特に難民認定においてその要件を満たしていない申請者数が増大していること、④水産政策の観点から考察した場合、2017年4月に施行された有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法により新たな変化が見られることなどを見出すことができた。 また、2004年に成立した国民保護計画に基づき都道府県や市町村などでその作成が義務付けられている国民保護計画に関係する施策を、日本の有人国境地域を有する自治体(市町村)を中心に考察した。その結果、①それらの自治体の多くにおいては法律上の問題(想定されるケースが多すぎること)に加え、特に町村レベルにおいては実務上の問題(他の業務と比べて行政需要がないため後回しにされがちであること)、②尖閣諸島は第二次世界大戦中から無人島となっているため同諸島が属する石垣市の国民保護計画ではほとんど言及されていないことが分かった。 この他、日本のボーダーツーリズム(国境観光)に関して本研究の観点から考察した結果、現在進行中の日露間の北方四島における共同経済活動の一つの柱である観光分野における可能性に関して、これまでのビザなし交流の成果をもとに指摘することもできた。
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