研究課題/領域番号 |
15K13007
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐々木 勝 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (10340647)
|
研究分担者 |
安井 健悟 青山学院大学, 経済学部, 准教授 (80432459)
川田 恵介 広島大学, 国際協力研究科, 准教授 (40622345)
犬飼 佳吾 大阪大学, 社会経済研究所, 講師 (80706945)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 社会規範 / 市場メカニズム / 投票ルール / 委託・委任制度 / 経済実験 / 行動経済 |
研究実績の概要 |
経済活動を規定する制度や経済システムと社会規範の関係に関する研究は、最近注目されているが、国別データによるマクロ分析に限定されている。個人レベルの社会規範に着目した研究はデータの制約上少ない。本研究の目的は、制度が個人の社会規範の遵守に影響を与えるかを経済実験からデータを収集し検証することである。具体的な制度として、(1)市場メカニズムの導入、(2)投票ルールによる集団決定プロセスの導入、(3)委託・委任制度の導入を取り上げる。そして、社会規範の遵守を測る指標として、「発展途上国の子供達にワクチンを寄付するかどうか」を採用する。制度を外生的に導入することで、被験者が報酬を受けとるよりもワクチンを送付することを選択すれば社会規範を遵守する意識が高まったと判断できる。 本研究では、主に経済実験の手法に着目し、適切な実験室、及び被験者の管理の在り方について研究する。実験室で実施する経済実験を通じて、市場メカニズム等を含む様々な経済制度の導入が、被験者に適切な行動・選択をするように仕向ける実験デザインを考察する。 当該年度は、試行錯誤しながらも複数回の実験を実施した。データ分析の暫定的な結果をまとめたものを国内外のセミナーで報告し、有益なフィード・バックを得た。これらのフィード・バックに対応したうえで、論文にまとめる予定である。 当該年度は、本学に設置した経済実験室の整備に努めた。当該年度4月から稼働し、これまで10回以上経済実験が実施された。実験者が被験者に一斉に指令ができるシステムの導入や実験経済研究者の育成に力を入れた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の進捗状況は、概ね順調である。「研究実績の概要」に記載したように、当該年度は経済実験を複数回実施した。特に、(1)市場メカニズムによる集団決定プロセスや、(2)投票ルールによる集団決定のプロセスの導入による経済実験の効率的なデザインを研究した。そして、対照群である個人の意思決定プロセスとの結果と比較することで、集団決定との違いを浮き彫りにした。 また、対照群と処置群の分け方に関して、主に2つの方法(between-subject法とwithin-subject法)を試みた。between-subject法では、被験者を明確に対照群と処置群に分け、対照群の結果と比較することで、処置の効果を明示的に抽出する。ただ、この方法の前提条件は、2つの群が事前に同質であることだ。被験者数の総数が少ないと、この前提条件を満たすのは難しい。一方、within-subject法では、被験者に対照群の実験と処置群の実験の両方を行ってもらい、一人二役を担っていただく。そうすることで、対照群・処置群の同質性を満たすことができる。ただ、順番によるバイアスが発生する場合がある。1番目を対照群の実験、2番目を処置群の実験と配置した場合、2番目の実験の選択は、1番目の実験結果に影響されやすいと考えられる。順番をランダムに割り当てることで、順番バイアスを軽減できると考えられる。当該年度、これらの方法で実験を複数回実施し、結果を比較することで、効果的な実験デザインを考察した。 当該年度に実施した実験のデータから暫定的な結果をまとめた。まとめたものは国内外のセミナーで報告し、有益なフィード・バックを得た。これらのフィード・バックに対応したうえで、論文にまとめる予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては、研究の概要に記載したもう1つの処置である(3)委託・委任制度の導入が被験者の寄付行動に与える効果を経済実験から検証することである。今後、実験をデザインし、被験者を募集し、実験を複数回実施する予定である。もちろん、「研究の進捗状況」で説明した2つの実験方法(between-subject法とwithin-subject法)を採用し、比較する。期待できる結果として、指令を出す受託する側は、実際に選択をしないので、彼らが持つ「寄付をしないことによる罪悪感」は、自分自身で直に選択する場合と比べて、薄まると考えられる。 これまでの研究成果や実験結果は論文にしてまとめる。そして、国内外のセミナーや海外の国際コンファレンスで報告することを目指す。必要な場合、実験の追試を実施する。一般的に、経済実験の分野では、追試を求められることが多いので、早めにコメントを頂き、追試のための実験デザインを作成・実施する予定である。 引き続き、本学の実験室を活用しながら、実験施設の整備に努める。また、効率的な被験者募集の方法や謝金の支払い方法を検討し、実験内容を説明する実験者の育成にも努める。 研究成果は、様々なフィード・バックに対応したうえで、国際学術雑誌に投稿し、掲載されるように努める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が当該年度に国際学会に参加する予定であったが、学内業務のため急遽参加することができなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は、できるだけ学内業務を調整したうえで、積極的に国内外のコンファレンスに参加・報告する予定である。研究代表者が参加できない場合、研究分担者が代わりに参加できるように調整する。
|