研究課題/領域番号 |
15K13008
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
柳澤 哲哉 埼玉大学, 人文社会科学研究科(系), 教授 (90239806)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 社会的価値 / 停止状態 / 功利主義 / 徳倫理 / 低成長 / マルサス |
研究実績の概要 |
今年度と研究を行ったなのは、(1)経済学者の停止状態論の系譜と(2)マルサスにおける徳倫理と功利主義との関係の2点である。 (1)停止状態論の系譜:マカロックのように停止状態を悲観的に捉えた論者ではなく、J.S.ミルのように停止状態を積極的に受け止めた経済学者の系譜を探った。この作業を行うには、経済成長の停止を意味する「停止状態(stationary state)」と経済成長の自然的限界を意味する「富源の終焉(the end of its/our resources)」を区別する必要がある。スミスの場合、富源の終焉ではなく利子率の低下から停止状態に接近しつつあるホラントを悲観的に描いていない。この停止状態論がその後の経済学者の停止状態論の原型と考えられる。リカードウも富源の終焉とそれ以前に到達する停止状態とを実質的に区別しており、停止状態を「もっとも活力のある状態」と位置づけた。そこでは高賃金と停止状態との共存を想定している。この考え方は、人口制限が実現した場合に一人あたり幸福量が高い状態と停止状態が共通すると想定したジェームズ・ミルにも共通している。人口増加の制限を産児制限ではなく、生物学的人口論で説明したマイケル・サドラーも停止状態を労働の軽減と精神的豊かさを実現した最高度の幸福な状態とした。J.S.ミルは、ジェームズ・ミルらの停止状態論を継承するにあたり、サドラーを媒介項として総括したと考えられる。この系譜は経済成長主義と誤解されがちな経済学の真の姿を把握するのに重要である。 (2)マルサスにおける徳倫理と功利主義の関係:社会的価値の検討にあたってクレマスキが近年、提起した徳倫理からのマルサス解釈の検討が不可欠であることが判明した。そこで、クレマスキ説の妥当性と問題点を考察した。この作業は当初の予定にはなかった、追加的な研究事項である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
停止状態論の系譜については、スミス、マルサス、リカードウ、ジェームズ・ミル、サドラー、J.S.ミルの系譜を確認することができたが、予定していたチャーマーズについては分析途中である。この作業が遅れているために、ワーキング・ペーパーによる成果の一部の公表に到らなかったが、主要な系譜についてはおおむね予定した成果を得ることができた。 研究開始直後から、経済学者の社会的価値を研究するのに、クレマスキにより近年提出された徳倫理からのマルサスの経済思想研究の検討が不可欠であることが浮かび上がってきた。有徳な人間の形成に焦点を当てたクレマスキ説は、功利主義への対抗を意識しすぎているために全面的に支持するわけにはいかないが、社会的価値の解明に大きな手がかりを与えてくれると予想された。そこで、クレマスキ説の妥当性と問題点を明らかにする作業を本研究の一部として行った。これが予定の遅れの主たる要因である。なお、クレマスキ説の検討については、その成果の一部をイギリス哲学会関東部会で報告し、既刊の共著論文集に論文(「マルサスの功利主義」)として公表できた。
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今後の研究の推進方策 |
28年度には予定どおり、マルサス、マカロック、シーニア、チャーマーズらの救貧法論を主な対象として、具体的な政策提言に表れてくる共助のあり方や家族の自立、生活の安定などの社会的価値を主に研究する。 これに加えて、社会的価値の研究上、無視しえないクレマスキ説については、追加的な研究事項としてより詳細に検討を加える予定である。これについては書評等の形で公表していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
功利主義関連文献および国内旅費が予定より少額で済んだために、前年度未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度未使用分については、おもに前年度購入しなかった文献の購入に当てる予定である。その他の予算は当初の計画どおりに支出する予定である。
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