本研究では、イノベーション活動に対する政策効果を定量的に評価することを目的にする。イノベーション活動は経済成長を促す原動力として古くから注目され、この活動に外部性が伴うのであれば、政策的な介入を経済学的にも理論的に正当化できる。しかしこの理論的な含意は未だ実証的に確認されておらず、エビデンスベースの政策立案に対して課題を残している現状にある。実証的な評価を行うためには、イノベーションの持つ外部性を定量的に識別する分析手法の確立という挑戦的課題を解決する必要がある。本研究では、産業組織論で用いられている構造形推定手法を応用・開発することにより、上記の課題の解決を目指した。手法を応用先として、産業横断的なアプローチと産業特殊的なアプローチから分析を行った。前者については、JNIS(全国イノベーション調査)を用いた産業横断的な個票ベースのデータを用いて、補助金の効果計測の精緻化を試みた。この研究成果については、翌年度に取りまとめる予定である。後者の産業特殊的なアプローチについては、(1)不動産産業や道路ネットワークに対して、外部効果の定量的な計測方法を応用するときに考えられる問題点や政策的な含意を分析すると共に、(2)医療機器に焦点をあて、その市場構造に注目しつつ、医療機器の価格づけと流通における病院との間の交渉力が、どのように医療機器の開発インセンティブに影響を与えるかを分析した。この成果はDPとして取りまとめられた。両アプローチともに、構造推定手法を用いることを主眼に置いており、企業の費用関数や消費者の効用関数を推定した上で、シミュレーションを通じて、補助金の効果や、価格交渉力の多寡について定量的な観点から評価を行った。
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