研究課題
2国2財2要素の国際経済において、(1)一部門が完全競争、もう一つがクルノー寡占であり、(2)一方の国では賃金の固定制によって失業が生まれ、他方では完全雇用が成立し、(3)寡占部門では企業は自由に2国間を移動し、(4)寡占企業の所有権は国際的に分布している状況をモデル化した。さらに、そのモデルを使って、法人税減税、立地補助金、生産補助金などによって自国に寡占企業を誘致した結果、自国の経済厚生がどのような影響を受けるかについて分析を行った。これらの政策は、寡占企業を誘致するとともに、その利潤を高め、寡占財の生産を増やすという3つの効果を持つ。第一の効果は寡占企業が労働集約的であれば雇用を増やすが、資本集約的であればかえって雇用を減らし、失業を悪化させて所得を減らす。第二の寡占利潤増大効果は、自国が寡占企業の所有権を多く持つほど大きいが、所有権をあまり持っていないと誘致政策にかかる補助金や減税などの費用が利潤増大分の受け取り額を上回って、所得を減らしてしまう。第三の寡占財生産拡大効果は寡占価格を引き下げる効果を持つが、それによる経済厚生へのプラス効果は、自国がその財をどのくらい生産し消費しているかに依存する。その結果、企業の所有権をあまり持たない貧しい国が失業に悩み、資本集約的で自国ではあまり消費されない製品を作る寡占企業を政策的に誘致すると、かえって自国の経済厚生が下がることが明らかになった。この結果は、失業に悩む途上国が、輸出振興を考えて贅沢品を生産する先端企業を誘致することが、自国に不利になるかもしれないことを示している。さらに、自動車産業、ビール産業、スマートフォン産業などの実際のデータを使って、どのくらいの株式シェアを持っている場合に誘致を止めるべきかについて、分析した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画通り、賃金高止まりによる失業が発生している国を念頭に、企業移動と企業所有権の国際分布の可能性を考慮したモデルを構築し、各種の企業誘致政策が経済厚生に及ぼす効果を分析することができた。さらに、28年度の研究テーマとして考えている、資産選好の飽和性がもたらす動学的長期不況を取り扱うことのできるモデルの基本構造も構築した。そこでは、自国が長期不況、外国が完全雇用を実現している場合を考えている。そのため、当初の予定よりも進展していると言える。
27年度に開発した2国2財2要素の国際経済モデルを使って、不況国の経済政策と好況国の経済政策の効果の違いなどを分析し、当該モデルのさらなる応用を目指す。また、基本構造を確定した動学的長期不況国際経済モデルについても、各種の経済政策を導入し、それが自国や外国の景気に与える影響について分析する。
端数
物品購入費に充当予定。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件) 図書 (1件)
Behavioral Interactions, Markets, and Economic Dynamics: Topics in Behavioral Economics
巻: Springer ページ: 191-228
The Economic Record
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現代経済学の潮流2015
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