平成29年度は、①インドにおける貧困世帯および中流世帯を対象とした訪問面接形式の本調査を実施する、②パイロット調査で得られたデータ分析の結果を学会で報告する、③厚生経済学における理論的に性能のよい福祉指標を構築する研究を国際学会で報告する、といった作業を実施した。
補助事業期間全般を通じて得られた最大の成果は以下の二点である。第一に、インドの訪問面接調査で得られた個票データを用いて、国際的に注目されている福祉尺度である幸福度、多次元貧困指標、健康等価所得の三つの尺度を比較分析し、①幸福度は必ずしも所得水準と関連せず、弱くしか相関しない、②極貧水準において健康等価所得は実質的に所得アプローチに等しくなる、③極貧水準における貧困の実態はDominance基準を満たす多次元貧困指標の方がより適切に分析可能である、の三点を解明したことにある。本研究は三つの福祉尺度を比較可能な個票データを整備・構築することによって、健康等価所得を含む平等等価アプローチが適応的選好形成の問題に対処できず、貧困を評価する福祉尺度として欠陥があることを実証的に解明した点に意義がある。第二に、Dominance基準とパレート原理を満たすような社会的ランキングを構成することは一般に不可能であり、合理的な性質を備えた福祉の尺度としては、Sakamoto (2017) が解明した最低福祉水準に基づく十分主義的な社会的ランキングに限られることを示した点にある。今後の研究では、Sakamoto (2017) で特定化された最低福祉水準に基づく福祉尺度を現実問題に応用する際に必要となる諸問題(尺度の計算のために必要となる資源の選択、信頼性・妥当性を満たす質問紙の作成など)を検討することが求められる。これらの研究成果はすべて国際的査読誌に公刊すべく、論文にまとめ次第、適宜投稿する予定である。
|