研究課題/領域番号 |
15K13028
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研究機関 | 阪南大学 |
研究代表者 |
今城 徹 (今城徹) 阪南大学, 経済学部, 准教授 (20453988)
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研究分担者 |
結城 武延 東北大学, 経済学研究科, 准教授 (80613679)
齊藤 直 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 准教授 (90350412)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 日次株価データベース / M&Aと市場評価 / 株式市場の情報効率性 / 株式分割払込制度 / 株式市場と企業行動 |
研究実績の概要 |
本年度は昨年度と同じく日次株価データベースの充実を図るとともに、最終年度における本研究の取りまとめに向けた中間報告を行なった。データベースについては、これまで捕捉が不十分だった新株銘柄と1925年から1929年の主要企業の旧株銘柄を中心に入力した。この作業により、1920年代日本における株式市場の情報効率性についての検証、日本の資金調達の特徴の具体的な把握、大型M&Aの市場評価についての検討がより高い精度で行えるようになった。 中間報告については、2016年8月5日の経営史学会関西部会大会において、「戦前日本の企業行動と株価 -日次株価を用いた経営史研究の試み-」と題した研究メンバーによるパネル報告を行なった。このパネルの目的は、従来の企業経営の歴史研究において企業業績を測定するための重要な指標である株価が重視されてこなかった状況を踏まえて、株式が企業の資金調達や意思決定に与えた影響について日次株価データベースを用いて具体的に把握することであった。 第1報告の「戦前日本における貯蓄銀行投資銘柄の選定過程」(今城)は、戦前日本において有価証券投資を積極的に行なっていた貯蓄銀行の投資銘柄の選定過程を投資予定銘柄の株価をもとに検討した。第2報告の「恐慌と銀行破綻 -昭和恐慌における加島銀行の事例-」(結城)は、1927年金融恐慌において破綻した加島銀行の破綻処理の過程を主に同銀行の利害関係者の行動に注目して検討した。「株式分割払込制度と株価」(齊藤)は、戦前の独特の制度であった株式分割払込制度が企業の資金調達に与えた影響を株価を用いて検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日次株価データベースについては、1921年から1929年について当初予想していたよりも多くの銘柄が入力されつつあり、上記期間における主要企業の行動および意思決定や株式市場を株価から包括的に検討することが可能となった。また、不況から好況へと移行していく1930年から1936年のデータベース構築作業もすでに開始しており、現在入力すべき銘柄の選定を行なっている。これに加えて、メンバーの齊藤によって主要企業銘柄の長期清算取引月次売買高についてのデータベース構築が開始された。稠密な制度で網羅的に捕捉された株式売買高のデータベースはそれ自体が高い学術的意義を持つとともに、本研究の到達目標の1つであるマーケットインデックスの作成に欠かすことができないものである。 メンバーの研究の進捗状況について、今城は今後行う予定の学会報告に向けて、1920年代の大型M&Aに対する市場評価に関する研究を開始している。具体的には、1920年代に電力業と並んで大型M&Aの多かった製糖業を対象に、1927年に行われた資本参加、合併、買収の各事例に対する市場評価を検討しており、それに用いる対象期間についての日次株価データベースのさらなる精度の向上とそれに基づくマーケットインデックスの作成はすでに終えている。結城は1920年代における株式市場の情報効率性の検証を開始しており、さらに、このテーマについてファイナンス分野の研究者との協業を模索している。齊藤は株式分割払込制度に関する研究を継続するとともに、上記データベースの構築を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
29年度は、データベースについては、さらなる拡充を行うとともに、近い将来の研究者に対する公開に向けてその方法に関する検討を行う。研究成果については、積極的な成果発表を学会報告や雑誌投稿を通じて行なっていく。 成果発表の機会として、現段階では、6月24日に行われる経営史学会関西部会において今城が「1920年代大型M&Aと市場評価 -製糖業の事例-」と題する報告の実施が決定している。内容は戦前日本における製糖企業のM&Aに対する市場評価を検討するものであり、具体的には、1927年に実施された大日本製糖による新高製糖および東洋製糖の株式取得、新高製糖の社長交代、大日本製糖と明治製糖による東洋製糖の合併、台湾製糖による塩水港製糖所有の2工場の買収について、各イベントにおける各企業の株価効果を検証する。 また、10月21・22日に行われる経営史学会全国大会において、メンバーによる「戦前日本の企業経営と株式市場-日次株価データベースの構築と経営史研究への活用-」と題したパネル報告を予定しており、すでにアプライをしている。本パネルは、6月報告を加筆修正した今城報告の他に、1920年代の株式市場の情報効率性を大規模なショックが起こった際の株式市場の反応から検証する結城報告、戦前期の企業金融を規定した最も大きな特徴の1つである株式分割払込制度について、先行研究が十分に対象としてこなかった株価との関係から検討する齊藤報告で構成される。 最後に、メンバーは各報告を加筆修正したものを『経営史学』または『Enterprise and Society』といった国内外の歴史研究者に影響力を持つ一流ジャーナルに投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度年末に委託したデータの納品が次年度となり、その支払いが年度をまたいだため。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度末委託のデータはすでに納品されており、2017年度4月中に支払いが行われている。
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備考 |
2016年8月25日に阪南大学において日本学術振興会研究成果社会還元に係るプログラム「ひらめき☆ときめきサイエンス」を行い、中学生対象に株式市場と企業行動を理解してもらうためのレクチャーを実施した。
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