研究実績の概要 |
本研究は,「人事システム」という人事管理実践のまとまりが,それに関する人々のどのような解釈・実践・利害調整の中で「もっともらしい事実」として浮上しうるのか,そうした事実「性」の構築が,個人や組織の目的達成のためにどの程度重要であるのか,について理論的・実証的に探究するものである。こうした問題意識の下,昨年度は,(1)どのような概念を射程におくべきか,(2)具体的な検討対象として何を置くべきか,という問いを立て,研究に取り組んできた。 総じて言えば,(1)について言えば,射程に入れる基礎づけ概念が,制度派組織論(Greenwood et al., 2008),コミュニケーションシステム論(Luhman, 1984; 佐藤, 2008),脱構築(Derrida, 1990),プラグマティズム(Rorty, 1989),政治的リベラリズム(Rawls, 1993)などと,広範にわたるものであるため,具体的な研究成果は現在作成中である。ただし,人事管理の実践の現場についての視野が不十分な主流的な研究について批判的な論考を行い,人事管理の当事者との対話を行い,彼らの視座を解釈するために有用な議論であることは,改めて確認できた。 (2)について言えば,実証的な調査を行うための協力企業,協力企業と共同調査を行う際の具体的なテーマについては,大方の目星をつけることができた。社員格付制度が連鎖的に引き起こす人事諸制度の変化の過程(を当事者がどう受け取り,そこで認識や利害の調整をどう行っているか),あるいは,情報技術(IoT,ビッグデータ,人工知能)を人事領域に持ち込むことで従業員が自己・対人関係・組織をどう定義するようになるのか,といった点を探求課題とすることとなった。
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