研究課題/領域番号 |
15K13037
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
柳田 卓爾 山口大学, 経済学部, 准教授 (10303041)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 自己株式 |
研究実績の概要 |
自己株式の取得等が、収益性や成長性に与える影響を考察するために、平成27年度においては、(1)先行研究のレビュー、(2)実証分析のための基礎データの収集を行った。(1)先行研究のレビューは、(a)成果尺度、(b)経営の自由を活用する能力という2点について行った。(a)自己株式取得等に関する実証分析は、ファイナンスや会計学といった領域で主として行われており、シグナリング仮説やフリーキャッシュフロー仮説など、自己株式取得の動機等を解明するために、累積超過収益率(CAR)や総資産利益率(ROA)といった成果尺度が利用されていることが分かった。(b)自己株式取得等という企業行動には、自社以外の支配者を排除するという機能がある。しかし、現実には、自己株式には議決権が付与されていないため、直接的には、排除機能が働かない。その結果、本来的には、支配者排除機能を持つことが隠されてしまい、自己株式取得とは利益還元の手段の一つであるという理解のみがなされているということが分かった。(2)実証分析のための基礎データの収集では、2015年3月期決算データ(連結)を用いて、総資産6,000億円以上の上場企業を対象とし、データ(自己株式数、自己株式数比率、総資産当期純利益率)収集の試行を行った。自己株式取得等が収益性や成長性に影響を与えているのか、逆に、収益性や成長性が自己株式取得等に影響を与えているのか。両変数の因果関係の方向性の問題を含めて、自己株式取得とROAとの関係の分析には、慎重な判断と、更なる分析・検討が必要であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、平成28年度以降に行う「自己株式取得等企業の経営成果の実証分析」実施のための準備期間という位置づけであり、具体的には、(1)先行研究のレビュー、(2)実証分析のための基礎データの収集を計画していた。本研究は、ファイナンス、会計学、会社法との関連が深い、ある意味、学際的研究であるがゆえの難しさがある。しかし、(1)先行研究のレビューでは、もちろん、引き続きレビューの継続は必要ではあるものの、今後の研究の進展に必要な知見が、一定程度、得られたと考えている。他方、(2)基礎データの収集においては、自己株式の「取得」と「保有」を識別することや、「自己株式取得等企業」の定義の難しさといった理由のため、分析に必要なデータの構造化を行うことができなかった。しかし、試行調査を行い、また、文献レビューから、上記の課題を克服するためのヒントを得ることができており、以上を総合的に判断して、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度において、当初の研究実施計画に従って、研究を進める。第1に、平成27年度に引き続き、先行研究のレビューを行い、自己株式取得等企業の経営成果を測定するに相応しい尺度の検討を継続する。特に、本研究においては、収益性や成長性といった経営指標を、企業統治の在り方(経営者資本主義、利潤最大化仮説)を測定する指標としても扱う。そのため、企業統治の在り方についての実証分析において、どのような経営指標が利用されているのかについても、文献レビューを行っていく。第2に、「自己株式取得等企業の経営成果の実証分析」を行うための、データセットの構築と記述統計分析を行う。「自己株式取得等」変数と「収益性や成長性」変数との間の因果関係の方向性の確認方法など、克服すべき課題はあるものの、特に、「自己株式取得等」と「経営成果」との間に見られる定型化され得る事実の発見に努める。
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