本研究の目的は、自己株式の取得・保有・消却・処分(以下、自己株式取得等)が、収益性や成長性といった経営成果に与える影響を考察することである。最終年度は、山口大学経済学会ディスカッションペーパーシリーズNo.36『企業の利益還元についての意識調査~単純集計結果報告書~』、同No.37『自己株式の保有と経営成果』をまとめた。 自己株式取得は、近年、多用されるようになった株主への利益還元政策のひとつである。日本においては、平成13(2001)年商法改正以降、自己株式取得の原則自由化がなされた。No.36においては、自己株式取得をはじめとして、配当増額、内部留保、賃金引上げなど、企業の利益還元政策に対する一般の人々の意識調査を行った。その結果、今回の調査サンプル全体の平均的な意見は、「事業活動の結果、獲得した利益は、企業内部に留保するのではなく、①従業員や株主などといった企業関係者へ還元したり、②株式市場という金融経済面を通じてではなく、設備投資や研究開発といった実物経済面を通じて、企業の将来性に投資したりすべきである」というものであることがわかった。 No.37においては、自己株式の保有高の増減等を自己株式保有戦略と捉えた場合、自己株式保有戦略が、収益性や成長性にどのような影響を与えているのかについての実証分析を行った。その結果、(1)自己株式保有戦略は、収益性には影響を与えておらず、成長性に影響を与えている、(2)自己株式の保有高を増減させる(積極的な保有戦略)よりも、変動させないこと(消極的な保有戦略)が、高い成長性をもたらしている可能性がある、(3)積極的な保有戦略を採用しているならば、自己株式を増やす戦略であっても減らす戦略であっても、収益性や成長性には、大きな違いがない、ことが明らかとなった。ただし、本分析は分散分析を用いた結果であり、今後、より精緻な分析が期待される。
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