「シェフ」は、分業化されたオーケストラや調理場の長として最大限に現場の人材の能力を引出し、最高の製品を完成させるために不可欠な存在である。本研究では、「シェフ」のキャリア特性とシェフの感性がもたらす組織とのダイナミズムを探求し、シェフのクリエイティビティが産業に与える影響について解明することを目的とした。 このためフィールド調査の対象として取り上げたのが、日本人のシェフたちである。日本人シェフの海外での活躍が目覚ましい。そこで、パリで活躍する日本人シェフへのヒアリング調査を実施し、その結果をフロネティック・リーダーの6つの要件(野中2007)により整理することで、シェフのしごと能力をフロネシスの概念から検討した。これまでリーダーシップについての研究が進められてきた「変革型」「牽引型」リーダーに対し、フロネティック・リーダーは①知識のインフラづくり、②後進の育成(コーチングや動機づけ)、③知の発信(知識資産価値、セミナー)を行っており、「社会関係資本」(ソーシャル・キャピタル)に働き掛ける「知のプロデューサー」としての役割を有することが指摘されている。 本研究からは、以下の点が指摘される。第一に、シェフのフロネシスには個性を埋め込む感性が重要となる。第二に、シェフのプロフェッショナリズムは、その都度得られる客からの直接的な評価により、省察が繰り返され、鍛えられていく側面が強い。第三に、プロデューサーとしてのシェフの役割である。シェフのしごとには、技術と感性を高度に融合させながら事業を成功に導く総合的な実践知としてのフロネシスが必要とされる。本研究は、シェフのプロフェッショナリズム解明に向けた実証研究の蓄積に貢献すると共に、技術と感性を融合させるプロデューサーの役割と育成に関する理論構築の一助としての意義を有する。
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