研究課題/領域番号 |
15K13057
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
上村 浩 高知工科大学, 経営学部, 講師 (10710189)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | タックス・コンプライアンス / 税務調査 / 租税回避行動 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,納税者が過少申告すること,すなわち脱税を防止・発見する税務調査の戦略的フレーム・ワーク理論を構築し,実験によってこの妥当性を検証することである。本年度は、先行研究で提示されている代表的な税務調査のスキームについて、その実効性と効率性の観点から実験室実験によってこれを検証した。当該実験は予備実験における実験フレームワークを精緻化し行ったものである。当該実験において確認した税務調査の理論モデルは3つある。第1にRandom(納税者は、報告所得の額に関わらず、ランダムに調査される)、第2にLeast income reporter audited rule (LIRA;被験者グループの内、最も低い所得を申告した被験者が調査される)) (Harsanyi, 1967)、第3にCut-Offモデル(申告所得が所得範囲(10~1000)の2/3(750)以上の範囲であれば調査されないが、それ以下であった場合は、1/3の確率で調査される)(Sanchez and Sobel, 1993)である。 実験の結果、各納税者のコンプライアンス・レート(真の所得に対する報告所得の比率)は、LIRAとCut-Offにおいて有意に負の相関を有することが示された。またLIRAにおける徴収税額が最も高く、一方総徴収額(税金とペナルティーの合計)はCut-Offが最も高くなった。しかし総徴収額の差は統計的に有意な差は確認されなかった。 これまで先行研究でCut-Offの有効性は確認されていたものの、LIRAについては実証されてはいなかった。しかし本研究の結果はLIRAも有力な調査スキームであることを示している。これは本研究の貢献の1つである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの予備実験を精緻化し、税務調査における効率的かつ効果的な調査スキームを実験室実験から導出した。またこれらの結果は海外学会(The26th Asian Pacific Conferece on International Accounting Issues, Goald Coast, Australia) において発表の機会を得、多くの有用な助言を受けることができた。特に研究における問題意識および税務調査スキームの分析的研究の方向性(理論証明)については一定程度の評価を得たと考えている。これらから本研究はおおむね順調に進展していると判断している。 このように税務調査スキームについての分析は進展している一方で、納税者側の行動についての分析は未だ充分とは言えない。特に本研究では実験後に納税意識に関するアンケートを実施しており、個人の納税意識が納税行動にどのような影響を及ぼすかについて分析できるよう工夫されている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、第1に各被験者の納税意識が納税行動に与える影響について分析する必要がある。これについては各被験者のアンケート結果を得ており可能な状況にあると判断している。第2にタックス・プロモーターの存在を実験フレーム・ワークに入れ込む必要がある。ここまでの研究では主として税務調査スキームの有効性に焦点を当てたものであったため、新たにタックス・プロモーターを組み入れた実験デザインを確立し、当該プロモーターの質(経験・知識・納税意識)が、納税行動に与える影響を分析する必要がある。 さらに、当該媒介者を組み入れた場合、これまでの研究で示された各納税スキームの有効性がどのように変化するのかについても分析する必要がある。 これらを考慮した実験研究の結果については海外の学会を中心に投稿し、発表の機会を得る予定である。具体的には本年12月にEuropean Accounting Association 主宰の学会に、また来年1月にはAmerican Accounting Association 主宰の学会に投稿する予定である。
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