研究課題/領域番号 |
15K13065
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
黒嶋 智美 千葉大学, 文学部, 日本学術振興会特別研究員(PD) (50714002)
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研究分担者 |
西阪 仰 千葉大学, 文学部, 教授 (80208173)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 会話分析 / 東日本大震災 / 原子力発電所爆発事故 / 相互行為 / 支援 / 帰還 / 災害 / 感情 |
研究実績の概要 |
当初の計画していた内部被爆検査の結果通知場面のデータの拡充は,調査参加者を見つけることができず,進めることができなかった.その代わりに,申請前に収集したものを分析する作業を行い,その成果の一部は,研究分担者の西阪が来年度のアメリカ社会学会で報告予定である.この研究のほかに,原発事故後避難指定を受けていた地域における帰還住民の感情に関する二つの調査を行った.この地域はかつて警戒区域だった福島第一原発から20キロ圏内を含み,平成26年4月1日をもって避難指示解除準備区域が解除された自治体である.一つは,まさに帰還が政府により宣言された一年後であったため,帰還に際し住民らが直面する様々な問題や苦労,心配といった感情を,細かく記述する研究である.具体的に,毎月一回複数の住民の話し合いの場に研究者も参加しながら,そのビデオ収録(現在までに15件)を行った.もう一つは,前年度から連絡を密に取っていた,帰還事業の一環としての住民支援を業務委託されているNPO団体の支援活動の研究である.具体的には,この支援団体の会議場面を毎月一回録画(現在までに8件)し,会議における住民の感情を語る語彙の分析を開始した.両研究とも,次年度前半で報告書をそれぞれの研究協力先や関係者に提出する予定である.旧警戒区域の当該地域に関しては,平成27年10月31日付で,千人以上の住民が(県内および県外で)いまだ避難生活を送っている.そのような地区にあって,帰還する住民も,帰還を支援する団体も,かつての町の活気を取り戻すべく,懸命に努力を重ねている.そうした中で浮かび上がってくる現在抱えている問題や心配事,不安などの感情にどのように対処しているのかを記述していく方針である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画であった内部被曝検査の研究は,分析を中心に行なう方針を取ったことで,新たに二つの大がかりな調査を開始することが出来た.内部被曝検査も原発事故から4年目で,現状を分析し記録することの重要性がある.一方で,震災以前より高齢化,過疎化が進んでいたひとつの自治体の分断,細分化が,原発事故の避難によって急激に進んだ段階で,政府によって宣言された帰還を受けて,実際に帰還を経験している住民や,それを支援する支援団体の活動の経験を記録し,社会学的研究を行なう意義も大変大きいものである.今年度は少しでも多くの住民の方の声を集めるため,データ収集に集中をしたが,2月より分析を開始し,いくつかの分析的課題を整理することが出来た.その課題とは,様々な立場の住民らにとって何が問題として語られて,不安や心配が表明されるのか,支援者は住民の思いや考えをどのように推測し,具体的な支援活動に取り込んでいるのか,支援者にとって住民を「巻き込む」ことがどういう概念として取り扱われているのかなどである.2月にはこれらのデータの一部を,非公式のデータセッションにて海外より招聘した研究者とともに2回検討し,分析の方針に対する手がかりを得ることも出来た.
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今後の研究の推進方策 |
内部被曝検査の研究では,研究分担者(西阪)が平成28年度8月に国際的に権威のあるアメリカ社会学会で分析報告を行う予定であり,原発事故が風化しつつある状況のなかでどのようなことが人々の不安,懸念事項として認識されているのか,またそれに医療専門家はどう対処しているのかを具体的な分析によって,海外に向けて発信できるよい機会である. 帰還事業の二つの研究については,ビデオ録画を前年度1月でいずれもほぼ完了させており,今年度はデータ分析とそれのまとめに注力する.まずは研究協力をいただいた団体,関係者に対し報告書を提出し,研究の還元を試みたい.その上で研究協力者各自が分析を論文の形にまとめ,国内および国際学会に応募していく予定である.
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