研究課題/領域番号 |
15K13066
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 香里 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 教授 (40292784)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | メディア倫理 / ケアの倫理 / 人道主義 / コスモポリタニズム |
研究実績の概要 |
本研究はデジタル情報化、グローバル化の中、メディアの倫理について、コスモポリタニズムと人道主義の観点から検討を試みるものである。H28年度は、以下の通り、海外の最先端の研究動向に触れることができて非常に有意義な年となった。 1.アメリカ・ノースウェスタン大学を訪問し、コミュニケーション理論の「レトリック」の分野についてのレクチャーを聴講した。このレクチャーでは、政治の原動力はむしろ人々の意見変更を促す「レトリック」の部分にあることに注目する「レトリック・ターン」という流れを扱った。レトリックは一般的に否定的なイメージのある言葉だが、古代ギリシャ時代から、人を説得するために必要な話法と考えられており、古典文献にあたりながら、今日的グローバルな政治に媒介するメディア化されたレトリックのあり方を考え、大いに示唆的であった。 2.英国ロンドンにおいて、コスモポリタニズムとメディア倫理の分野の第一人者であるLilli Chouliaraki教授に会い、研究交流を深めた。 3.メディア化され、言語を超えたグローバル社会では言葉よりビジュアルな「感情」のコミュニケーションが重要になる。この点でイリノイ大学シカゴ校のZizi Papacharissi教授と研究交流をし、私のケアのジャーナリズム論を同校で発表し、多くの有益なコメントを得た。 4.アメリカ、ロヨラ大学のワークショップに参加し、国境を越えた悲惨なニュース報道の手法として「バーチャルリアリティ(VR)」の映像制作事例などを見た。 5.オーストラリア・シドニー大学で開催されたCross Roads in Cultural Studiesに参加。映画やドキュメンタリーを視聴した際の情動的反応(affective response)、そこから生まれる“倫理的目撃者(ethical witness)”の可能性が検討されていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度は、アメリカ、イギリス、ドイツ、オーストラリアを訪問した際にさまざまな資料や文献を集め、ケアの倫理に関するメディア研究、文化研究、政治理論研究の動向を探ることができた。とくに、イリノイ大学では研究発表をし、知見の交換もできた。また、H30年に開催される国際ジェンダー史学会にも応募し、「ケアの倫理」の知見を交換できる場での研究発表の可能性を考えている。
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今後の研究の推進方策 |
・H28年度は在外研究の年だったので、H29年度はこれをもとに、日本の問題を中心に東日本大震災や慰安婦問題などを考え、グローバルなメディア倫理のあり方をさらに追求していきたい。 ・新たな情報技術(AR, VR)や、ソーシャルメディアの利用がグローバル社会の悲惨さを説得する有効なツールとなる反面、どのような倫理を適用すればよいのかが大きな課題となっていることを学んだ。デジタル情報技術の発展とグローバルなメディア倫理の課題をさらに考えていきたい。 ・以上の点を日本語で一般向けの新書などで出版することを構想している。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度は在外研究で海外動向の調査に専念し、論文執筆をする十分な時間をとれなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度は、学会発表、論文執筆に力を入れ、そのための英文校正を必要としている。 また、国際ジェンダー史学会に応募しているので、その渡航費にも充てる予定。
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