本研究課題では,ロシアにおける中央アジア移民,特に最も脆弱な存在である労働移民に注目し,中央アジア系市民を除くロシア市民が,中央アジア労働移民に対して構築する境界の維持の手段と方法,中央アジア労働移民がロシア社会の中で構築する境界の維持の手段と方法を,質的調査をもとに分析し,中央アジア移民の移動(mobility)/非移動(immobility)の視点から彼らのロシア社会における隔離(Enclosures),集住(enclaves),わな(entrapment)を解明することを目的とした。 平成29年度の研究計画においては,研究成果公開を重視し,国際学会での口頭発表と海外学術誌への投稿・発表を目指していた。国際学会での発表は,本課題の海外研究協力者である東フィンランド大学ヨニ・ヴィルクネンおよびロシア科学アカデミー社会政治研究所セルゲイ・リャザンツェフとともに英国スラブ東欧学会においてパネルを組織することができた。また,琉球大学国際沖縄研究所と協力し,移民による故郷のコミュニティ維持に関する国際コンファレンスを組織し,海外研究協力者である東フィンランド大学ポール・フライヤーとともに本研究課題のセッションを策定し,研究成果の公表を行った。また,海外学術誌への投稿は現在1本投稿中であるとともに,本年度において1本の掲載が実現した。その他,著書(章担当)の刊行も予定されており,研究成果の量的・質的成果の充実を実現している。 調査実施面においては,最終年度は,サンクトペテルブルク市において中央アジア諸国からの移民が働く建築現場や市場を中心にフィールドワークを実施することに成功し,建築現場や市場を囲む境界とそのなかで暮らす移民たちがロシア社会から隔離し,集住する現場の調査を行った。それをもとにした研究成果は,『ユーラシア研究』第57号においても公開されている。
|