研究課題/領域番号 |
15K13073
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研究機関 | 北星学園大学 |
研究代表者 |
水川 喜文 北星学園大学, 社会福祉学部, 教授 (20299738)
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研究分担者 |
浦野 茂 三重県立看護大学, 看護学部, 教授 (80347830)
秋谷 直矩 山口大学, 国際総合科学部, 講師 (10589998)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会学 / エスノメソドロジー / 会話分析 / 医療的ケア / インタラクション |
研究実績の概要 |
本研究は、研究計画に示したとおり「アティピカル・インタラクション(atypical interaction)」すなわち「コミュニケーションに関する障害のある人を含む相互行為」研究に関して総括的考察と、社会学の一つの方法論であるエスノメソドロジーからの分析・考察を行うこと、特にウィトゲンシュタイン派エスノメソドロジーの立場からの方法論的問い直しを行なうことを目的としている。本年度の研究については(1)アティピカル・インタラクションが含まれるデータを分析した国際学会での発表を含む研究の公表である、(2)アティピカル・インタラクションが含まれる可能性のある障害や難病の人たちのフィールドへの関わりと調査、およびそのデータ収集と総括である。まず、(1)については、研究代表者が国際エスノメソドロジー学会大会(IIEMCA 2017)において、アシスティブ・テクノロジーによる視線入力の導入場面の分析を中心にアティピカル・インタラクションの考察を行った。また、当事者研究のカテゴリー使用に関する相互行為的研究を国際語用論学会(IPrA)において発表した。さらに、研究分担者などとの研究を含めると、当事者研究における当該概念およびインタラクション上の諸問題の考察を行うとともに、より根源的なテーマである「行為の理解可能性」に関する考察を行った。(2)については、アティピカル・インタラクションに関連する当事者の組織やや関連組織を中心に関わりを持ちながらフィールドワーク、聞き取りおよびデータの収集・分析を行った。その中には、精神・身体障害、難病などが含まれる。また、これまでのビデオ撮影データの整理と分析を行った。このように、当該年度はアティピカル・インタラクションのエスノメソドロジー研究のために理論的側面と共に、国際学会における研究発表、論文発表、データの整理・収集と分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度におけるアティピカル・インタラクションのエスノメソドロジー研究に関して、国際学会・論文などでの研究発表と、その基盤となるデータの分析をすすめた。まず、国際学会発表に関しては、医療的ケアを受ける難病(ALS)の人による、アシスティブ・テクノロジーの導入について考察を行った。これはパーソナル・コンピュータの視線入力の導入場面について分析・考察を行った研究であり、International Institute of Ethnomethodology and Conversation Analysis Conference(国際エスノメソドロジー学会大会)において"Asymmetrically organized order of instructions on the use of an eye-tracking PC for people with communication difficulties"として発表した(査読あり)。また、当事者研究の相互行為におけるカテゴリー使用について、International Pragmatics Conference(国際語用論学会大会)において"Membership categorization and sequential use of language in Tojisha Kenkyu (or self-directed research) sessions for mental health"として発表を行った(査読あり)。この当事者研究に関しては、そのグループセッションにおける当事者性と共成員性を考慮した固有のインタラクションに関して論文発表を行った他、エスノメソドロジー研究にとってより根源的な問題である「行為の理解可能性」に関する考察も行った。以上のように、障害を持つ当事者の組織との関わりを持ちながら、アティピカル・インタラクションが行われる場面におけるフィールドワークや個別の聞き取り、可能な場合はビデオ撮影によるデータ収集などを行い、その分析・考察をすすめた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、上記にある通り、引き続き、これまで行ってきたアティピカル・インタラクションのフィールドに基づいたデータ分析と、理論的方法論研究という2つの方向性を引き継いでいきたいと考える。学会発表に関しては、Loughborough University(英国)で行われる5th International Conference of Conversation Analysis(ICCA-18:国際会話分析学会大会)において発表を行う予定である。このような国際学会と共に、国内の学会や研究会での発表を行い、研究成果を論文として発表したい。フィールドワークやデータ収集に関しては、身体障害者の移動介助(旅行など)に関するデータや医療的ケアを受ける人のアシスティブ・テクノロジーの使用など、新たなデータ収集と分析の可能性も生まれてきた。これに関しても、引き続き障害当事者の倫理的な配慮を行いながらフィールド調査とデータの収集を行い、分析を進めたい。以上のような研究状況を鑑みて、さらなるデータ収集の可能性と分析の展開が見込まれるため1年間の期間延長を行って研究を推進したいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、次の2つがある。まず、人件費・謝金については、データの収集・分析の状況を考慮して、当該年度についても研究者自身が行うことが合理的と判断した。そのため外部への依頼は行わないという結果になったため、使用に至らなかった。また、旅費については、国際学会への支出ではなくアティピカル・インタラクションに関連した、障害コミュニケーションに関わる国内学会・研究会への参加への研究費使用としたために限定された出費となった。これらは、次年度のデータ収集・分析のために利用したい。 次年度の研究費の使用計画としては次のとおりであり、今後も研究の進行状況に応じて適切に使用したいと考えている。まず、上記及び期間延長申請書に記載したとおり、アティピカル・インタラクションに関して、アシスティブ・テクノロジーを用いたコミュニケーションに関する研究(難病や身体障害者および関連する介助)の可能性があり、そのデータ収集に関連した支出を考えている。また、その成果発表および情報交換・情報提供のために国内学会・研究会への使用を予定している。また、人件費・謝金については、データの収集・整理に関する状況を勘案しながら利用したいと考えている。さらに、障害当事者を中心とした専門的知識の提供に関連する支出も、謝金対象者との関係を考慮して実施したい。
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