本研究は当初、北海道千歳市に特に焦点を当てることにより、冷戦期の日本において市民社会がいかに国防を支えてきたのか明らかにし、同時に自衛隊基地や防衛産業によって人々の生活がどのように変容してきたのか検討することを計画していた。しかしながら、平成27年度に先行研究のレビューを行う中で研究計画を変更することにした。理由は、当初予定した北海道における自衛隊と地域社会の関係を考察した研究が平成27年に複数公表されたためである。一方で、これまで防衛庁や自衛隊の幹部に対するオーラルヒストリー調査は実施されてきたが、一般自衛官に対するオーラルヒストリー調査はほとんどされていないことが分かった。自衛隊創設期の内情を知っている元警察予備隊・保安隊・自衛隊員は高齢化しており、今後の本分野の研究の発展のためにも、それに早急に取り組むこべきだと考えた。そこで研究計画を変更し、創設期(1950年代から60年代前半)に警察予備隊、保安隊、自衛隊で勤務した経験のある元隊員に対するライフヒストリー調査を行うこととした。 平成29年度は、自衛隊OB組織の協力を得て、九州、四国、中国、近畿、関東、北陸、東北各地に在住する元自衛隊員29名に聞き取り調査を実施した。インタビューはICレコーダーによって記録し、今後の研究資料とするためにトランスクリプトを作成した。本調査を通じて、これまでほとんど明らかにされてこなかった、創設期自衛隊で勤務した隊員の入隊の動機や、入隊までの経緯、勤務状況や生活実態などを知ることができた。さらに、創設期自衛隊が地域社会とどのように関わっていたのかその一端を知ることができた。
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