本研究は、ヘイトスピーチの温床となる誤った信念が検索エンジンの利用によって強化される可能性を実験的に明らかにすることを目的として実施された。 平成27年度は、オンライン調査会社のモニタからスクリーニング調査によって選ばれた1024名の実験参加者を対象に、事前調査としてメディア利用や政治的態度などを測定した。その後、実験参加者は処置群と統制群に無作為配置された。処置群の参加者に対しては在日コリアンに関する客観的に誤った命題が提示され、統制群に対してはプラセボ命題が提示された。そして、5分以上10分未満の時間でそれらの命題の真偽をインターネットの検索エンジンを用いて検証することが求められた。次に、実験の従属変数として在日韓国・朝鮮人に対する顕在的態度やレイシズム、主観的メディアリテラシーを測定し、最後にIATによって在日韓国・朝鮮人に対する潜在的態度を測定した。分析の結果、検索行動によってデマ命題を正しいと考える人の割合は有意に低下することが確認された。すなわち、動機づけられた推論や選択的接触から導かれる仮説とは逆に、検索エンジンの利用は誤認知を修正する効果を持つ。一方、検索行動は韓国人に対する感情温度を低下させる効果が見られた。 平成28年度は、クラウドソーシングサービスの登録者を対象に実験を行った。2172人の日本人成人を対象とし、前年度と同様の検索課題に加えて検索時の動機を操作する手続きを組み込んだ。具体的には、検索時に正確な情報を求めようとする正確性動機を高められる群と、自分の考えに合致する情報を求めようとする方向性動機を高められる群を作り、検索の効果に違いが現れるかどうかを検討した。データは鋭意分析中である。なお、両年度ともに検索時に最も参考になったページをクロールしており、検索によって得られた情報の内容分析と実験結果を紐づけた分析も進行中である。
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