最終年度の平成29年度には、「積極的分離」に至った複合的な困難を抱えるDV被害母子(母子生活支援施設利用)の事例について、これまで実施した支援記録と母親インタビューの分析成果をもとに論文にまとめて発表した。 また、その研究成果をふまえ、複合的な困難を抱える母子への支援のあり方として、支援者や当事者、広く一般に理解されている母親規範の批判的再考や、ジェンダーパースペクティブ、フェミニスト・ソーシャルワークの必要性について、国内外の文献調査を実施した。 同時にDV被害者や貧困女性の支援経験のある研究者(国内・国外)にヒアリングを行い、研究成果についてのコメントをもらい、さらなる研究の発展について示唆をえた。その一環としてソーシャルワークとジェンダーに関する研究会を開催し、母子福祉、ソーシャルワーク理論、過疎高齢女性の女性史を専門とする複数の研究者との研究交流を行い、フェミニスト・ソーシャルワークの理論的検討・実践的検討の必要性を理解した。 今後は、複合的な困難を抱えるシングルマザーに焦点をあてつつ、日本におけるフェミニスト・ソーシャルワークの理論的枠組みの検討を行う方向で発展させる予定である。社会福祉学およびソーシャルワークの分野においては家族の多様性・個別化や、ジェンダー多様性の議論が他分野に比べて低調といわざるをえないなか、本研究で得られた研究交流を継続し、複合的な困難を抱える母子・家族へのソーシャルワークに資していきたい。
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