本研究は、平成24-24年度実施の「アートセラピー全国実態調査」(JSPS科研費・挑戦的萌芽研究24653153 )によって把握された「エンパワメント型アートセラピー(EA)」の将来性と必要性に着目し、その発展に寄与するものである。EAが社会的地位を確立し、適正な認知と評価を得ること、その担い手の育成と恒常的な資質の向上が可能になることを目指した。 最終年度は、EAの実践家の協力のもとに具体的な「構成要件と評価基準」を策定した。これまでの研究の過程で次の3点が明らかとなっている。(1)EAの実践される分野が複数にわたる、(2)EAの対象者が千差万別で目的・目標も個々に異なるため、共通の評価基準の設定は現行では困難である、(3)評価の目的は「正しい裁定」ではなく、活動家の成長の促進、つまり構成要件の理解度・達成度を自己覚知し、活動に反映できるようにすることである。以上より、EAの構成要件として、アートおよびアートセラピーの知識・技術、活動目的・指針への意識、安全面への配慮・対策など「7カテゴリー23要件」を抽出した。さらに評価については、各項目を自己採点する方法が有効であるという結論に至った。 この方針のもと、構成要件と評価方法を読みやすく小冊子化し、無料配布・配信することが最も実践に役立つと考え、パイロット版「エンパワメントのためのアートセラピーハンドブック」を作成、調査に協力する実践家に配布した。実践家へのアンケートおよびヒアリングの結果、冊子の読みやすさや内容に対する改善点の指摘とともに、自己評価方法の有効性を高く評価する意見を得ることができた。 本研究の成果を関連学会において報告したところ、学会(分野)によって理解度・受容度が大きく異なり、医療分野よりも芸術分野、福祉分野の有識者の評価が高かった。そこに、本研究の今後の課題と可能性を見出すことができた。
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