本研究の目的は、世代から世代へと情報が伝達されて行く過程において、たとえば科学や技術のような知識体系が、累積的に進化していく現象、すなわち科学の累積的文化進化を実験室内で再現し、知識がどのような条件の下で進化していくのか、そのメカニズムを明らかにすることにある。本年度は、2種類の実験課題を用いて、2つの実験を実施した。まず第1に、多峰型適応度地形における探索課題を用いた、知識の累積的進化を再現する実験であり、昨年度に行った課題の発展型追試実験である。第2に、本研究におけるメイン課題である科学的発見課題を用いた実験である。いずれの実験においても、個人が探索した情報を次世代に伝達することを繰り返すなかで、科学的知識がどのように発展していくのかを検討するものである。第1の実験においては、昨年度に得られた知見が再現され、難易度が非常に高い課題である場合には累積的進化が生じにくいこと、そして、その原因は知識伝達に過程において、獲得された情報が不正確に伝達されるためであることが見出された。これは、昨年度の実験の結果の頑健性を示すものである。また第2の実験においては、参加者が獲得した知識を精緻に記録できるよう実験課題を構築し、その結果、科学的知識が世代を経て進化する過程を量的に検討することに成功した。そして、世代を経るごとに全体として正しい知識の保有量が増加していくにもかかわらず、科学的発見と呼べる段階には達しないことなど、いくつかの興味深い知見が見出された。
|