本研究は、集団や組織の「心」(集団心)に対する通俗的な信念の内実とその機能を、社会心理学的実験により明らかにするとともに、「集団心」の概念化の可能性、妥当性、限界を、科学哲学との協同により、機能主義的な視点から検討することを目的としていた。 具体的な成果は、次の4点である。1)心の知覚の2次元モデルとの対応:AgencyとExperienceの2軸で心の知覚を記述するモデル上では、集団はAgencyを保持する一方でExperienceは低いとみなされるが、集団の実体性が高いと知覚することが、Experienceの知覚を高める可能性について示唆的データを得た。2)組織不祥事に対する判断との関係:上記知見をさらに発展させ、組織不祥事場面における判断について検討した。結果、他の心の知覚と道徳的判断研究の知見と同様、Agencyが高いと判断される場合に、より大きな責任や非難が帰属されることを明らかにした。3)家族という小集団を対象として、そこでの視点取得や心の推論と家族関係の展開を経時的なデータをもとに検討した。小集団においては、個々の対人認知の集約としてモデルが記載できる一方、視点取得による共有認知が小集団の「心」を生み出す可能性を示唆する結果を得た。4)「心」概念の構築の望ましい在り方についての、概念工学的・規範的観点からの検討:概念工学とは、概念を「人類の幸福に資する」ために再構築(エンジニアリング)する営みである。集団心については、責任、道徳を担保するために必要とされる「自由な意思決定」が組織内にいかに保持されているかの認知が重要であること、一方、そのような判断は様々なバイアスを伴うので、それを修正することの妥当性や権利が問題となることが論点として挙げられた。またそこにおいて、人々の集団心としての規範意識を制度内に取り入れる手法が問題となることも議論した。
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