研究課題/領域番号 |
15K13117
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
谷田 林士 大正大学, 心理社会学部, 准教授 (50534583)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 情動伝染 / 表情模倣 / 共感性 |
研究実績の概要 |
本研究は、共感的プロセスの一つである情動伝染に着目し、眼球運動装置と表情筋測定を同時に用いて情動伝染の原始的プロセスとして生起する表情模倣過程を可視化することを目的としている。この可視化とは、対人場面における表情に対する注視や表情筋の変化の特徴を自分自身で認識できるように促進することであり、具体的には、実験参加者が対人場面の表情筋や相手の表情への注視等について、自身のデータを分析することで、表情模倣や情動伝染過程のプロセスを理解し、その向上を支援することである。表情模倣に基づく情動伝染の指標だけではなく、脳波や心拍変動との関連性についての実証を重ねながら、最終的には、対人関係の中で共感性が果たす役割の理解を促進させ、新たな大学環境に適応するための汎用性の高い初年次教育プログラムとして発展させることを研究の目的としている。 2年目にあたる平成28年度の実験では、昨年度に引き続き、表情筋(EMG)としてポジティブな情動経験と関連する大頬骨筋とネガティブと関連する皺眉筋の筋電位が測定され、2者間会話時の表情模倣過程が測定された。会話実験では、話し手と聞き手の役割に分かれており、話の聞き手のみの表情筋や注視データが測定された。共感性を向上させる可視化システムとして、今年度実施した実験では、対人場面での表情模倣の測定とその後の自分自身のデータを分析するということを何度も繰り返し実施した。その結果、測定と分析を繰り返し実施していくと、表情模倣が熟達していき、相手の表情筋の活性に合わせて自身の表情筋も活性できるようになることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に実施した実験では、対人関係スキルに自信がない学生を募集した。対人援助職を目指す社会福祉学生を対象とした実験と、1年生を対象とした実験の2つを実施した。社会福祉学部を対象とした実験では、18名を実験参加者とし、全員が2回の表情模倣の測定実験と、2回の表情模倣の可視化データの分析を実施した。表情模倣の測定実験では、対人場面の2者会話状況を用いたが昨年度の実験と異なり、参加者同士は友人ではなかった。その結果、2回目の表情模倣測定においても、表情模倣の上達を示唆する結果が得られなかった。そこで、2つ目の1年生を対象とした実験では、測定回数を3回に増やし、さらに2回目の測定実験では、自身が話し手となる際の表情筋の活性も測定した。その結果、各参加者とも、相手が友人でなくとも可視化に基づく自身のデータを分析することで、自分の表情模倣の特徴を理解でき、情動伝染を意識して行うようになる変化が示された。これらの結果から、実験実施や研究の進展に関してはおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の実験では、表情模倣の可視化に基づく共感性を向上させる実験的検討に加えて、より汎用的で簡易版の共感性向上可視化システムの構築を目指すことを目的とする。28年度までの可視化システムでは、眼球運動や表情筋を測定する実験機材の設備費用に加え、測定された各種の生理指標のデータに対してクリーニングを行った後でデータの同期を行うなどの人的費用も重なり、多大な費用を要する。そこで、授業・ゼミナールなどでの実施を念頭に置き、専門的機材を使用せずに、表情模倣の測定と自身のデータ分析を実施する予定である。2色のタックラベルという直径1cm程度の丸形のシールと、スマートフォンを用いる。簡易版の実験では、話し手も聞き手も両頬の大頬骨筋に赤のシール、両眉上の皺眉筋に青のシールを貼付する。各自のスマートフォンを交換し、話し手が話している際も、聞き手がそれを聞いている際も互いの表情を動画で録画し、課題を終えると,それぞれのスマートフォンを持ち主である相手に返却する。このように対人場面における表情模倣の可視化システムとは、録画された自身の動画を確認し、聞き手の際にシールで強調された表情筋が動いているか、または、話し手の際に自身の話内容に対応する表情筋を活性化させながら相手に話を伝えているかどうかを確認し、自身の表情模倣の熟達度を把握することになる。 上述のような簡易版の可視化システムに基づく表情模倣実験を、初年次科目等の講義中に実施し、表情模倣や情動伝染を介した共感的な他者理解が向上するかどうかを検討する応用的な研究を進めていく予定である。
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