本研究の目的は、対人場面における表情模倣過程を可視化することを通じて、共感的な他者理解を深める方法を開発することにある。本研究の可視化とは、情動伝染の原始的プロセスとして生起する表情模倣過程のデータを実験参加者自身が分析することを指し、その可視化されたデータを分析した結果、表情に対する注視や表情筋の変化に関する自身の特徴を認識し、表情模倣を向上させる方法を自ら模索することが促進される。表情模倣測定実験では、表情筋(EMG)としてポジティブな情動経験と関連する大頬骨筋とネガティブと関連する皺眉筋の筋電位が測定され、2者会話課題時の表情模倣過程が測定された。会話課題では、話し手と聞き手の役割に分かれており、話の聞き手のみの表情筋や注視データが測定された。最終年度の平成29年度には、表情筋や眼球運動の測定装置を用いて可視化データを分析する実験がコミュニケーションを苦手とする学生を対象に実施された。表情模倣の測定と可視化分析を行った後、2回目の表情模倣の測定が実施された。その際に参加者が会話課題の話し手となって表情を表出している会話時のデータも可視化された。表情模倣と表情表出の2つの可視化データを分析した結果、相手の表情筋の活性に合わせて自身の表情筋も活性できるようになることが示唆された。さらに29年度には、初年次学生の共感的なコミュニケーション能力を養成するため、より汎用的で、人的費用も含めコストの抑制された簡易版の表情模倣トレーニング法の開発を行った。授業プログラムの一環として実施するために、各自のスマートフォンを用いて自分の表情模倣時の動画を撮影した。会話課題の可視化されたスマートフォン映像を見て表情模倣の生起を自身で確認しながら、より熟達した表情模倣を行うための改善を自ら図ること促進した結果、表情模倣の向上が示唆された。
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