研究課題/領域番号 |
15K13120
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
中谷内 一也 同志社大学, 心理学部, 教授 (50212105)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リスク認知 / 防災 / 減災 / 社会心理学 |
研究実績の概要 |
近年、個人のリスク認知の高さが実際の災害対策行動にあまり結びついていない、あるいは、両者の関係が全く確認されないというリスク認知パラドクスが問題となっている。本研究の目的は、(1)リスク認知パラドクスを確認し、それが生じる理由を実証的に検討すること、および、(2)その知見を生かして災害への準備行動を促すための処方を提案、効果測定を行うことである。その中で、本年度の課題は2つの社会調査を実施してリスク認知パラドクスを確認し、何がそれを生み出すのかについてのデータを得ることであった。第1調査の対象者は既婚女性2,064名であり、居住地は日本全国をカバーしていた。質問項目は大きく分けると、(a)居住地域での巨大地震の発生予測、(b)地震災害準備の実行状況、(c)地震災害のリスク認知(被害予測)、(d)地震災害準備の有効性評価、の4つのカテゴリーで構成された。分析の結果、リスク認知と準備行動との関係がないというリスク認知パラドクスは、実際には、4つの回答パターンの合成であり、必ずしも逆説的とはいえないことが見出された。その4つのパターンとは、(1)災害リスクが高いと思って準備を行っている人、(2)災害リスクが低いと思って準備をしていない人、(3)準備をしていないので災害リスクが高いと思う人、(4)準備をしているので災害リスクが低いと思っている人、である。これらは反応の一貫性ということでは論理が通っている。ただし、(2)や(3)の回答者は災害に対する脆弱性が懸念される。第2調査では、第1調査のうち「高リスク認知・低準備者」および「低リスク認知・高準備者」傾向の強い参加者を抽出し、その要因についての自由回答を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定されていた2つの社会調査を実施し、分析も順調に進んでいるため。 第1調査の結果は従来のリスク認知パラドクス概念を覆すものであり、現在、論文を執筆し投稿準備中の状況にある。第2調査では大量の自由記述データを得ており、現在多様な視点から分類作業を行っており、定量的な分析に乗せられるよう検討を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、操作な可能な要因を独立変数として取り上げたフィールド実験を実施し、準備行動を行っていない人に対して、行動レベルの防災準備を促進する処方を検討する。具体的には、参加報酬の得られるイベントとして「有効な防災講演を設計するための調査」を実施し、参加者に対する行動レベルでの影響を検証する。たとえば、他者への援助動機を要因としてとりあげる場合、実験群では講演において“備蓄していた保存水・保存食を、避難直後、他者に分けあうことができた”というような実話を挿入する。統制群ではそのような他者への援助についての話しは行わず、通常の自助を中心とした講演を行い、全体の講演時間などは統制する。講演終了後、講演内容についての質問紙を回収し、謝礼をお渡しする。その際、参加者には予告していない追加分の謝礼として、防災備品か、それに対応する現金かの選択ができるようにする。この選択が従属変数となる。こういったかたちで現実の一般住民を対象としたフィールド実験を実施し、これまでの研究において災害準備行動を促進するとされる要因が、実際に、現実の行動レベルで災害準備を高めるかどうかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定どおり、2つの社会調査を実施したが、アカデミックディスカウントが適用され、予定していたよりも安価にデータを収集できたため。また、翌年実施するフィールド実験はひとり分のデータをとるためのコストが高くなる。そのため、初年度のデータ量を増やすよりも、翌年の予算と合わせた方が研究を全体として充実させることができる。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度はフィールド実験を予定しているので、その参加者数を拡充するために、前年度未執行分の予算を合わせて使う。フィールド実験では、前年度のインターネット調査に比べると、参加者ひとりあたりのコストが交通費や謝礼、提供する防災備品などのために格段に高額となる。分析の検定力を高めるには少しでも多くの参加者が欲しいので、そのために用いる。
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