研究課題/領域番号 |
15K13130
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
高橋 登 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (00188038)
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研究分担者 |
井坂 行男 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (40314439)
柴山 真琴 大妻女子大学, 家政学部, 教授 (40350566)
池上 摩希子 早稲田大学, 日本語教育研究科, 教授 (80409721)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 作文 / 物語作文 / 意見作文 / CLAN / ルーブリック |
研究実績の概要 |
日本人公立小学校の2・4・6年生,および在外の日本語補習校の児童を対象として,物語作文と意見作文を書いてもらい,分析を行った。物語は小学校低学年段階で物語構造に関する一定の知識(物語スキーマ)をもつことが知られており,そうした知識を前提とした上で作文が書かれることが想定される。また,意見作文は与えられた情報を組み合わせ,それに基づいて自らの意見・主張を読み手に対して説得力をもって文章化することが求められる。そうした意味で,学校教育で求められる「書き言葉」の獲得状況を知る上でこの2つが最適なジャンルであると考えられた。 分析は①文字・表記・単語レベル,②構文レベル,③談話レベルの3レベルについて,以下の手続きで行った。(1)最初に子どもの作文を電子化した。(2)文字数,漢字数のカウントを行った(文字・表記レベルの分析)。(3)CHILDESシステムのCLANプログラム(MacWhinney, 2000)で分析するために,日本語フォーマット(宮田・森川・村木, 2004)に基づいて分かち書きを行った。分かち書きに際しては,益岡・田窪(1992)の基準も参考にした。(4)分析用フォーマットに変換された児童の作文について,CLANプログラムによる分析を行った。1)単語レベルの分析として,単語の分類を行い,タイプ,トークンを算出した。2)文の複雑性・多様性の指標として,次の構文の使用を確認した:授受,感情,比較,受動,使役,可能。また,複文については以下の分類を行った:引用節(直接引用と間接引用),副詞節(時間,原因,条件,付帯,逆接,目的,程度),連体節(補足,相対,内容),並列節(順接,逆接)。(5)談話レベルの分析として,学習指導要領に準拠して,それぞれの学年ごとにルーブリックを作成し,ルーブリックに基づいた評定を行った。ルーブリックは構成の複雑さ・読み手意識の2軸で評定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度としては,概ね当初の予定通りに進んでいる。理由は以下の通りである。 (1)日本の公立小学校児童,および在外の国際児について作文を収集することができたことである。基本的なデータが収集できたことは本研究の出発点としては有意義なことであった。ただし,国際児に関してはこれまで交流のある日本語補習校1校のみに協力依頼をしたため,収集できた作文の数が少なかったことはサンプルの一般性を論じる上での制約となる。 (2)文字・表記・単語レベル(①),構文レベル(②)の分析に関しては,マニュアルを整備し,マニュアルに基づいて分析を進めることができた。ただし,作文の中で用いられる語彙の特徴の分析や,各分析指標間の関連性の分析,および分析の信頼性については十分な検討を行うことができず,この点が課題として残された。 (3)談話レベル(③)の分析に関しては,学習指導要領および指導要領準拠の指導書を参考にし,2・4・6年生それぞれについて,物語作文と意見作文に関するルーブリックを作成した。ルーブリックは構成の複雑さと読み手意識の2軸に基づき,段落の構成・段落間の関係・表現の適切性の3つの観点についてそれぞれ3段階で評定するものであった。評定の信頼性を高めるために表現の微調整を行ってきたが,すべてを確定させるには至らなかった。この点は当初予定と比べると進捗状況としては十分とは言えない。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は次の2つの方向について検討を進める予定である。 第1は作文の評定のための基準を確定することである。これまで3つのレベルの分析についてマニュアルを整備,ルーブリックを作成して実際に分析作業を行ってきた。評定の基準そのものは子ども達の言語能力の発達をふまえ,さらに作文指導の実態を踏まえた上でのものであるので,書き言葉発達の分析指標としては妥当性を備えたものである。ただし,次の2点に関しては不十分な点が残った。(1)評定の信頼性については十分な検討が行われていない。特にルーブリックに関しては信頼性を高めるために表現の調整・評定の作業を繰り返し進める必要がある。(2)評定は複数のレベルで行われていることから,レベル間の関連に関しても検討を進める必要がある。この2点が次の課題である。 第2に,こうして作成した作文指標に基づき,大規模データを収集し分析する。また,あわせてわれわれがこれまで開発してきた言語能力検査(ATLAN)を実施することにより,作文の能力(書き言葉)と,その他の言語能力との関係を明らかにする。さらに,書き言葉の獲得に困難があることが指摘される子ども達,とくに聴覚障がい児やバイリンガル児(在外の国際児や国内の外国人児童)に関しても調査を実施することにより,こうした子ども達の書き言葉の特徴を明らかにし,書き言葉獲得の支援策を提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費,とりわけ消耗品の費用が当初予定よりも低額で済んだので,その分の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降は調査を実施する予定であり,それに要する費用に充当する予定である。
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