研究課題/領域番号 |
15K13131
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
木下 孝司 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (10221920)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 幼児期 / 文化伝達 / 過剰模倣 / 教示行為 |
研究実績の概要 |
幼児は,仲間の振る舞いを見てあるいは相互に教えあって文化(知識,技術,規範)を学び伝える。本研究は,幼児の集団内における文化伝達のプロセスを調べるための実験的方法を開発し,文化伝達の指標化を試みることを目的にしている。 本年度は,次のような文化伝達を実験的に調べる方法を試行的に実施して,その可能性と問題点の整理を行った。 1)実験概要:保育園4歳児クラス17名全員を対象に,担任の指導のもとで,折り紙を使った紙飛行機大会を実施して飛距離を競った。すべての子どもが標準的な紙飛行機を作っていたのを確認した後,別の保育者が円筒形をした新型紙飛行機を実演してみせて,対象児の興味を引きつけた。その1週間後,2名の子どもにのみ,新型紙飛行機の作り方を教えた(その際,本来は不要だが紙を丸めるにペットボトルが必要であることを強調した)。2名への教示を経て,クラス全体で再び紙飛行機大会を実施して,子ども同士の教えあいのプロセスをビデオ観察した。さらにその二日後にも,同様に紙飛行機大会の観察を行った。それから10日後には,クラスの全員に対して個別に聴き取りを行い,新型紙飛行機の作り方と学習経路についての情報を収集した。 2)結果概要:3回目の紙飛行機大会において,約半数の対象児が自発的に新型紙飛行機を製作し,最後の聞き取りでは15名の子どもが新型紙飛行機をほぼ原型通りに作ることができた。保育者は教えあいを指示していないが,クラス内で新型の作り方が伝達していることがわかった。ただ,ペットボトルまで使って製作したのは,当初保育者から教示された2名だけであり,それ以外の子どもはペットボトルを使わないで紙を丸めていた。ペットボトルは本来使わなくても完成できるものであるが,教示者が大人か子どもかによって,社会的学習の忠実度が異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幼児を対象にした文化伝達の研究はまだ着手されたばかりで,その方法については確定的なものがない。そうした現状に対して,本研究の紙飛行機のように子どもにとってなじみのある素材を使って,実験的に統制した場面において文化伝達を観察することができたのは,重要な達成である。また,実施にあたって,モデル役を保育者と協議することによって,子どもの技能,社会性,リーダー性などが文化伝達に影響を及ぼす要因として確認でき,今後の研究に重要な指針が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
1)同様の手順で,年長児クラスでも実施して,文化伝達の発達的な違いを明らかにする。特に,年長児の場合,他者からの伝達に加えて自分での改良が関与する可能性について調べる。 2)伝達する課題として,紙飛行機の作り方のポイントを再検討する。完成させるのに,ある道具が必要だけれどもそれが足りないなど,伝達の忠実性と個人の改良可能性の2点で条件設定をさらに工夫する。 3)上記のように手続きを改善して,新たに実験を実施して文化伝達の検討方法を再点検する。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料整理を効率的に行うことができ,謝金の支出が予定より下回ったこと,ならびに経費の節約を行ったことから,次年度使用分が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
さらに複数のフィールドで研究資料を収集するために,出張旅費ならびに資料整理の謝金として適正に執行する。
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