心理学の前史にあたる時期について、ドイツのヴォルフ(1679-1754)の業績を整理した。ヴォルフは『経験的心理学(1732)』と『理性的心理学(1734)』を公刊したが、前者は感覚、想像力、記憶力を対象とするもので、後者は論理の形式や神の認識に関連するものである。この区別は後のヴント(1832-1920)における実験心理学と民族心理学の区分とも関連することが推定される。こうした中、1783-93年にはモーリッツ(1756-1793)により『汝自身を知れ:経験心理の学』という学術誌が出版された。 また、筆者は『心理学ワールド』で「心理学史の中の女性たち」を連載してきた。その第7回目はマーガレット・ナウムブルグ、第8回は「トップ10女性心理学者」をとりあげた。なお、この連載を10月発行から新たに「心理学諸国探訪」に切り替え、第1回目は国際心理学会の提唱者オコロビッツ(ポーランド)を、第2回目はこれまで日本で取り上げられることのすくなかったインド心理学史をとりあげた。 ラテンアメリカ諸国(特にブラジルを中心)に心理学史の調査を行う予定であったが、2019年1月から新大統領が就任したことに伴う政情不安により現地研究者が入国延期を示唆したため、実行できなかった。その代替として、ドイツやイギリスを中心に語られている近代心理学史の補完的な位置づけしかなかったイタリア・スイスを訪問し、現地の心理学史研究者と研究交流を行い、またアーカイブの見学などを行った。特に、イタリアにおいてはイタリア心理学の父・セルギ (1841-1936)の人生と研究についてその詳細を知ることができ、その経歴が日本の心理学の父・元良勇次郎との類似性がたかかったため、比較心理学史の共同研究を行うことで合意した。その成果は、2019年度であるが、『心理学ワールド』にてイタリア心理学史として公刊する予定である。
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