研究実績の概要 |
これまで、重度認知症の方の能力や行動について検討してきた結果、重度の認知症になっても他者と関わりたいという要求はあり、不安や恐怖が周辺行動の生起に関連していることを報告してきた(水上・岩淵,2012,2013)。しかし、介護家族はその要求を適切に理解することができず、介護負担感だけが増し、Boss,P.(和田訳,2014)が指摘するように、「曖昧な(不明瞭な)喪失(Ambiguous Loss)」を体験することになる。この曖昧な喪失とは、愛する人がここにいるのと同時にいないという二面性をもつ喪失のことである。このため、介護者は自分の置かれた状況を理解するために非常な努力がいることが指摘されている。 今年度は、施設に入所する認知症の方とその家族の方にインタビュー調査を実施した。この結果、施設に入所するまでに家族が多くの困難さを抱えていることが示唆された。 さらに、高齢者とその家族の質問紙調査から、家族が日常生活上での物忘れ(以下,生活健忘)をどのように捉え、また認知症告知といった問題をどのように考えているのかについて検討した。この結果、日常生活において自分の配偶者や両親の物忘れについてあまり関心が示されていないことや認知症が進行しないと周囲も記憶障害に気付きにくいことが推察された。高齢者本人が認知症になったときに病名を知らせて欲しいかどうか、また家族が病名を伝えたいと思うかについては、高齢者本人の思いと家族の思いが異なり、家族は「どちらともいえない」という回答が多く、家族は認知症を現実の問題として考えが及んでいないことが明らかになった。
|