本研究では食べたい欲求をがまんする意識的な食の抑制ではなく、対象に対する接近回避という身体運動や食器等の環境要因を操作する新たな食の統制法を試みた。まず大学生を対象に上腕の伸縮運動による態度変容の有無を検討した結果、予測に反し有意な態度の変容は示されなかった。その理由として上腕運動の疲労が逆に対象に対する否定的感情(回避)と結びついた可能性が示唆された。今後は疲労を生じず態度を変容させる最適な運動とその回数について検討する必要がある。次に一般成人を対象に盛りつけ場所の面積と盛つけ量との関係についていわゆるワンプレート皿を用い、皿の一番大きな場所に野菜を盛りつけるよう指定することで、指定なし時よりも盛りつけ量が多くなるかを検討した。その結果、野菜の盛りつけ量が有意に増加することはなかったが、野菜の摂取が多くなると主菜の量が減り、結果として栄養のバランスが改善される可能性が示唆された。さらに糖尿病患者を対象に同じワンプレート皿を使い同様の検討を行った。その結果、ベースライン時と比較し食器使用中では野菜の摂取量が有意に増加した。今回は食器を配布し携帯電話で食事の様子を撮影してもらい、その写真をもとにメールで後日食事指導する方法であったが、食器を使用しなかった統制群と食器使用群の事前事後の空腹時血糖値を比較したところ、食器使用群で有意に数値が改善していた。地方、特に個人医院においては糖尿病患者に対し管理栄養士が直接指導する機会を確保することは容易ではない。また高齢の患者の場合、食事管理の重要性についての情報や理解が十分でないことも多い。今回糖尿病の長期の血糖コントロールを示すHbA1cやインクレチンの分泌については有意な効果は示されず決して十分とはいえないが、今後IoT技術の駆使に加え、このような単純な環境要因の操作することで地方の高齢患者にも有効な食の統制法の可能性が示唆された。
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