早期にストレスの低減をもたらし、かつ自身で実施可能なストレスマネジメント手法のひとつに筆記表現法がある。本研究では、筆記表現法の地域高齢者への適用可能性に着目し、健常高齢者を対象とした予防的介入を無作為化比較試験により行い、その精神的健康における有効性を検証した。東京都A区の健康講座に参加している健常高齢者65名を対象とし、筆記表現法を行う筆記群と、比較課題として一日遅れの日記を綴る日記群に無作為に割り付けた。両群とも課題実施の前後(以下、事前、事後)に精神的健康や認知機能等に関する測定を行った。介入効果の主要な評価指標はネガティブな反すう尺度(以下、反すう尺度)を用いた。反すう尺度はネガティブな反すう傾向(以下、NRT)とネガティブな反すうのコントロール不可能性(以下、UNR)の2因子構造であった。課題を完遂した筆記群24名と日記群24名のNRTとUNRの得点について、事前の得点を共変量とする共分散分析を行った。NRTでは主効果、交互作用は見られなかったが、UNRでは両群に改善の主効果がみられた。筆記表現法の効果については個人差がみられたことから、介入が有効であった対象者の特徴について解析を行った。UNRにおいて改善があったものは認知機能検査の得点が高い一方、UNRおよび精神的健康は劣っていた。これらの成果を踏まえ、自宅にて実施可能なマニュアル及びワークシートを作成し、ホームワーク形式の筆記表現法の無作為化比較試験を行った。地域健診に参加する高齢者129名に協力を依頼した。53名から返送があり、不備が無かったものは介入群13名、対照群19名であった。解析の結果、NRTが高い対象者については筆記表現法が反すう傾向の減少に寄与することが示唆された。抑うつ傾向が高い高齢者においては本研究において作成した筆記表現法のマニュアル及びワークシートが有効であることが期待される。
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