本研究では、社会性が高いことで知られるマーモセットとその自閉症モデルであるバルプロ酸暴露個体(VPA個体)が、愛着行動や向社会性を高める作用があることで知られるオキシトシンを投与することで、社会行動がどのように変化するかを検討する。 マーモセットの血中オキシトシンレベルを、起床後でかつ食餌前の時間に測定した。オキシトシンレベルはメスに比べてオスの方が高値であった。測定対象個体は全て出産育児を経験していないにもかかわらず、オスは当該飼育室内に生後間もない(生後2週程度)個体がいる時に(直接幼体を見ることが出来る場合もあれば、見ることは出来ないが幼体の声が聴こえる位置にいる場合もあった)オキシトシンレベルが非常に高くなった。メスにはそのような傾向は見られなかった。メス間の比較ではVPA群の方がバルプロ酸に暴露されていないUE群よりもオキシトシンレベルが低い傾向にあった。オスは近傍の幼体の存在といった外界の要因によってオキシトシンレベルが変化するが、メスでは近くに幼体がいるという外界の要因による変化はないことが示唆された。オキシトシンレベルには性差があり、ストレスに対するオキシトシンの反応に性差があるという報告もあり、オキシトシンの治療効果を見る場合には性差を考慮する必要性があることが示された。 自閉症者は睡眠リズムに問題を抱える人が少なくない。ホルモンは日内変動するが、H28年度は血漿と唾液中のコルチゾール値も日内変動があり、午前中が高く夕方は低下することがわかった。今年度はVPA群の唾液を同様に採取してUE群と比較した。UE群では午前のコルチゾール値が高く午後に低くなったが、VPA群は有意な変動はなかった。またVPA群の9頭中3頭は、むしろ午後の方が高値だった。このことから、VPA群では内分泌のサーカディアンリズムがUEとは異なっていることを示す可能性が示唆された。
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