研究課題
本研究は、ヒトの視覚認知機能に関する心理学実験と遺伝子解析により、遺伝子多型間比較と文化間比較を行い、ヒトの心理や行動の規定要因を明らかにすることを目的としている。ヒトの視覚認知機能には個人間で大きな多様性がある。多様性を理解するためには、ヒトを等質なものとし多様性を誤差と見なすのではなく、差異に着目し、多様性の原因を同定する必要がある。そのため本研究では、視覚認知機能の研究に認知神経遺伝学(cognitive neurogenetics)の手法を導入し、遺伝子多型、脳機能、行動指標の多様性とその間の関連解析を行い、行動面に表出した多様性をもたらすメカニズムを、遺伝子、脳神経レベルで多層的に解明する。さらに、認知神経遺伝学と文化間比較を融合し、視知覚の多様性の遺伝的、社会文化的基盤の解明を目指す。平成27年度は、ヒト認知機能の生物学的基盤について、認知機能に関する課題成績の個人差を大規模サンプルで検討する脳イメージング実験および遺伝子多型解析を実施した。またそれと並行して、若年男女を対象に、経済学的、社会的因子を考慮したヒト社会行動の生物学的因子(ゲノム・オミックス、ホルモン、脳機能・形態)の縦断的・横断的計測を行っている。具体的には、未婚男女から夫婦を対象としたコホート研究により、養育環境や異性交際といったライフコースに関わる生物学的因子を縦断的に計測した。これまで、思春期の養育経験と未婚男女の脳活動の有意な関連性を見出した。今後は、これらの関連性と関わる遺伝子多型およびホルモンについての検討を行う。
2: おおむね順調に進展している
ヒト認知機能の生物学的基盤についての、大規模サンプルによる脳イメージング実験および遺伝子多型解析を実施し、大規模サンプルによる脳機能の個人差の検討では、認知制御を調べるMSITという課題時の脳活動と遺伝子多型データの相互関連を解析した。これまで、CHRNA4(rs1044396)、DRD4(rs1800955)及び認知制御課題中の下頭頂小葉の活動との間に有意な関連が見出されている。今後は遺伝子多型とfunctional connectivityとの連関を検討するため、追加サンプルデータを収集する予定である。また、コーヒーが持久力の向上や疲労軽減に効果を有するのか検証した。大学生を被験者とした自転車運動による評価の結果、コーヒー摂取が運動持続時間を延長し、疲労マーカーの唾液コルチゾール値を低下させた。また、カフェインの代謝酵素Cytochrome P450 1A2(CYP1A2)の遺伝子多型(rs762551)によりその効果には差異が認められた。
平成27年度の研究成果に基づき、28年度は、ヒト知覚におけるcontext-sensitivityを文化間、遺伝子多型間で比較するための課題を作成し、欧米国との比較実験を開始する予定である。
海外の研究者との共同実験の予定を変更し、その分の旅費を使用しなかった。
旅費および人件費として使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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