本研究の目的は、「歌謡曲に含まれる母音の数が多いほど情感は高まり、イメージを膨らませることができる」という仮説を検証することである。これまで知覚・認知実験を繰り返し行い、日本語ではモーラを話し言葉の単位としていることが、歌謡曲の印象に大きくかかわることを示した。2018(平成30)年度はさらに実験を行い詳細に検討した。主な研究内容と成果は次のとおりである。 ①前年度に引き続き、日本の現代音楽(歌謡曲)について文献研究を行った。特に、日本の歌謡曲における歌詞の役割に焦点を当て、音楽評論家や日本語学者等の著作物を中心に研究し、実験計画の立案および考察において参考にした。 ②意味の理解の程度および音韻の響きによる影響を日本語条件と英語条件の間で比較するため、曲の印象評価実験をそれぞれ行った。日本語歌詞と、それと同じ意味で日英語バイリンガルが英語に直した英語歌詞を刺激として用いた。各実験とも、聞き手を日本語ネイティブと非日本語ネイティブとし(2×2の4実験)、評価方法はいずれもSD法を用いた。分散分析(ANOVA)と因子分析により、歌詞の言語間および聞き手のネイティブ言語間で実験結果を比較・検討した。 ③日本語ネイティブの聞き手と非日本語ネイティブの聞き手の間で評価項目によって評価の高低が大きく異なるものとほぼ同等のものがあることが分かった。例えば日本語歌詞の場合、その歌詞の音韻の響きや意味内容に基づいて評価される項目については、日本語の習熟度の低い非日本語ネイティブでは深いレベルでの歌謡曲への評価は行われにくいこと等が分かった。 得られた成果のうち日本語と英語の歌詞の比較については日本心理学会(2018年9月)において発表した。さらに、歌詞の言語と聞き手のネイティブ言語の両方の比較はISPS2019(2019年7月)において発表する。また成果全体をまとめた論文を執筆中である。
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