研究課題/領域番号 |
15K13166
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研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
菱村 豊 広島国際大学, 心理学部, 准教授 (90293191)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マウス / 超音波発声 / 異種間コミュニケーション |
研究実績の概要 |
本研究は、齧歯類とヒトとの間での超音波を介したコミュニケーションの可能性を探る研究である。最初の実験として、マウスはヒトに対して超音波発声をおこなうかどうかを検討した。ICRマウス(オス10匹、メス8匹、いずれも実験開始時8週齢)にハンドリング(週3回、1回5分間)を長期間(2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月)をおこない、ハンドリング時の実験者に対するマウスの発声を5分間記録した。ハンドリング時には被験体のストレスを減らすため照明を暗くした(20 lux)。録音装置として、バットディテクターと高周波録音用レコーダーを使用した。また、同時に記録した行動のビデオデータとの時間的対応関係について解析した。 しかし、いずれの時点でもマウスの超音波発声は見られなかった。被験体の性別、実験者の性別に関係がなく発声は見られなかった。またハンドリング時に通常の固形飼料とは違うチョコレート風味の餌を与えてハンドリングを強化したり、録音実験時のハンドリングをこれまでハンドリングをおこなってきた実験者とは違う実験協力者に変更して場合でも、結果は同じであった。さらに、ハンドリングをおこなってきた被験体マウスを交配して生まれたマウス(4週齢)に対しても同じようにハンドリングをおこない録音実験を試みたが、同じくマウスの超音波発声は観察されなかった。この結果は、他個体との接触場面以外ではマウスの超音波発声は少ないという先行研究や、ストレス環境下ではマウスは超音波発声が少ないという先行研究の知見と一致する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
詳しい分析対象としていたマウスの超音波発声がまったく観察されなかったため、予定通りの進捗状況とは言えない。ただし、ハンドリングだけではマウスの超音波発声は見られないということがはっきりしたことで、社会的な文脈を取り入れた新たな実験を開始する着想を得た。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトとの接触場面においてマウスの超音波発声が見られなかったことから、当初の研究計画を変更し、来年度実施予定であった超音波の再生実験法を活用修正した上で、今年度新たな実験を実施する。マウスとヒトとの1対1場面ではなく、被験体にとって同種他個体との社会的な接触場面を擬似的に用意することで、マウスの超音波発声が出やすくなるのではないかと考えている。 マウス同士の接触場面では超音波発声が頻繁に見られることが確認できている。そこで、その録音データの一部をコンピュータ上で切り出し、ハンドリング中の被験体マウスにスピーカーから提示するという実験おこなう。その際の被験体マウスの超音波発声を録音する。また、2匹のマウスを同時にハンドリングすることで、マウス2匹とヒト一人との間の社会的な場面を設定し、その際の被験体マウスの超音波発声の有無を確認する実験もおこなう。ここで採取された音声データを、マウスだけの場面で発せられた超音波成分と比較することで、ヒトが存在することで変化するマウスの超音波発声を明らかにできる。なお、ストレス環境下ではマウスの超音波発声が少ないことが分かっているので、ヒトとの接触場面に馴らすために、昨年度と同様に長期のハンドリングは継続しておこなう予定である。 また、実験がうまく進展した場合は、さらに被験体をラットに変更して種間比較をおこなう。すなわち、ラットはヒトに対して超音波発声をおこなうかどうかということと、他個体が存在する場合や他個体の発声が存在する場合はどうかという点を明らかにする。実験方法はマウスの場合と同様である。
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次年度使用額が生じた理由 |
期待された実験結果が得られず、国内旅費や英文校正費が発生しなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の予定を変更して、社会的な文脈を取り入れたマウスの超音波発声実験をおこなう予定のため、あらたに必要な物品の購入や、発表することが決定している国際学会での旅費、英文校正費などに、この次年度使用額を充てる予定である。
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