本研究は、齧歯類とヒトとの間での超音波コミュニケーションの可能性を探る研究である。これまでの研究では、長期のハンドリングを行っても、ヒトとの接触場面においてマウスの超音波発声は観察されなかった。一方、ヒトが近くにいる場面でのマウス間の超音波発声は、ヒトがいないときに比べて、回数は少ないものの観察され、シラブルパターンにも違いがあることが明らかになった。 今年度は、ラットはヒトからのくすぐり刺激に対して超音波発声するという先行研究を元に、マウスのくすぐり刺激に対する反応を検討した。被験体として、個別飼育したICRマウス(オス成体5匹、メス成体5匹、オス幼体2匹、メス幼体2匹)を使用した。実験環境への馴化を行った後に、絵筆を使って被験体の背中や体側面を10秒くすぐり、10秒休憩するという手続きを4回繰り返す訓練を2週間行った。実験日には、上記と同様のくすぐりセッション以外に、筆追いセッション10秒を行った。この筆追いセッションでは、くすぐり刺激を与えた筆に対するポジティブ反応としてのマウスの筆追いかけ行動を観察した。くすぐりセッションと筆追いセッションの両方で、マウスの超音波発声を録音し、後にスペクトラム分析によるパターン解析を行った。その結果、いずれの被験体からも超音波発声は観察されなかった。その一方で、筆追いかけ行動は幼体でのみ4回(個体数3匹)で観察された。そこで幼体のみ、実験をさらに3日間継続したところ、やはり超音波発声は観察されなかったが、筆追いかけ行動の発生頻度は日を追うごとに増加した。 今後は超音波発声のデータについて、パラメータ調節をしながら再解析するとともに、筆追いかけ行動の生態学的な意味についても検討を深めていきたい。
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