我々は、意識する・しないを問わず、自己の状況を把握しながら、日常生活を送っている。自己の内部で起きている事と、外界で起きている事の区別は、脳の中に一旦入ってしまうと、なかなかの難問である。実際、統合失調症の患者さんは、その問いの壁に阻まれ、感覚や思考の由来が分からなくなった結果、幻覚や妄想に苦しんでいると考えられている。 統合失調症の病態は、いまだに混沌としている。この状況を打開するためにも、良い疾患モデルを確立することが、望まれている。これまで、統合失調症の動物モデルは、げっ歯類の常同性や自動性といった単純な異常行動をもって、評価されることが多かった。しかし、これだけでは、高次脳機能障害とされるヒト統合失調症の本質を捉えきれていないという批判も、根強い。そこで、本研究では、セルフモニタリング(自己の内部の状況を把握する能力)に着目して、霊長類の動物モデルを確立することをめざした。本年度は、サルにセルフモニタリング課題を課して、行動学的に評価した。まずサルに、様々な感覚刺激を提示して、その内容のカテゴライズ判断を求め、それが正しければ、大きな報酬がもらえ、間違えれば、報酬なしにする。その上で、第3の選択肢として、どのような状況でも、小さな報酬量を与えるようにすると、呈示する刺激が曖昧になればなるほど、第3の選択肢を選ぶ率が増加した。このことは、サルの自身の判断の正誤を、自己評価できている証左である。
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