研究課題/領域番号 |
15K13171
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 満 東北大学, 教育学研究科, 教授 (70171527)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 博物館 / 博物館教育 / 来館者 / 意味構成 / 解釈枠組み |
研究実績の概要 |
近代的制度としての博物館の役割は大きく変化している。教育的機能は、もともと博物館固有の役割の一つであったが、欧米の博物館教育実践では、従来の「知識の伝達」から「来館者とのつながり」を重視しつつ、来館者たちが能動的に経験をとおして意味を構成するプロセスとして学びはとらえられている。これに対して、日本における研究は大きく立ち遅れているといわざるを得ない。 確かに、日本でも近年の教育政策では、博物館と学校との連携が重視されている。しかし、それは博物館実践を支える理論的転換を踏まえた取り組みとはなってはいない。とりわけ、博物館の学習機会としての特殊性や、学習者である来館者が博物館経験をとおして、何を、どのように学んだかを明らかにしたものではない。したがって、正しい意味で、実践を評価できない現状がつづいている。 今年度は、昨年度実施した「浮世絵」特別展の鑑賞を事例とした調査を分析するともに、新たに、インテンシブな来館者調査を実施してきた。来館者は、「解釈枠組み」の理論にもとづき、どのようなプロセスを経て作品を鑑賞するのか、どのように意味を構成するのかを明らかにする資料が整いつつある。 今年度の出版とはならなかったが、『成人教育の社会学』を東信堂から出版を予定しており(すでに校正終了)、2017年4月には出版されることになっている。そのなかに、「博物館経験と意味構成」をだしている。 さらに、博物館種の違いに着目した調査を推進するために、いくつかの博物館における学芸員(教育担当)へのヒヤリングを実施した。これをもとにより詳細な調査を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①理論研究という面では、イギリスのフーパーグリーンヒルの理論的検討を終えていること。 ②実証面では、昨年度の調査の分析を終え、新たに必要な来館者調査を順調に進めることができていること。
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今後の研究の推進方策 |
[Ⅰ]理論的検討では、美術館を中心に博物館教育論を検討してきたが、科学館等別の教育課題に対して、これまでの理解がどこまで適用できるのか。あるいは、固有の特徴をもつのかなどを検討する。 [Ⅱ]博物館教育では日本だけではなく欧米の政策でも学校との連携が重要な課題となっている。研究の実際的意義という面を考えると、学校での連携における生徒たちの鑑賞行動の実証的把握、その改善等を念頭に置いた検討が課題となる。 [Ⅲ]次年度は、最終年度になるので、これまでの調査、理論的議論を総合的に検討し、成果としてまとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、これまで実施してきたデーターの分析を主に遂行してきたため、それほど大きな費用を必要としなかったものであるが、2017年度には海外博物館調査をふくめ実施する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
既述のとおり、海外調査及び日本の博物館を事例にして来館者調査を実施することを計画しており、そのための費用として予定している。 具体的には、学習プロセスの調査として、①学習環境と学習成果に関する調査(一人の見学とグループの見学の比較、学校のクラスでの見学、子どもと親の見学などの条件を課してインターラクションを記録、分析する。また、新しいテクノロジーであるデジタル解説機が鑑賞行動にどのような影響を与えるのかを明らかにする予定である。
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