研究課題/領域番号 |
15K13179
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
服部 憲児 京都大学, 教育学研究科, 准教授 (10274135)
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研究分担者 |
宮村 裕子 畿央大学, 教育学部, 准教授 (80441450)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | )学校改善 / 学校評価 / 質的測定 |
研究実績の概要 |
本研究は、学校に対する活動評価や説明責任の要求が厳しくなる中、教育に特有の数字で表しにくい部分について、成果を質的に測定する手法を開発することを目的としている。すなわち、数字で測定できない教育(政策)の成果を捉えようとする点、数値による評価で切り捨てられてしまう部分の明確化とその測定方法の考案を目指す点に特徴がある。 平成28年度においては、前年度の研究成果を踏まえ、学校現場の教員に対して、①学習指導に関すること、②生活指導に関すること、③教員に関すること、④地域に関することについて細かな項目を設定して、子どもの変化や学校等の変化について聞き取り調査および質問紙調査を実施した。これにより現場の教職員が感じ取る変化・効果と施策や実践の関係を把握することに努めた。また、多角的に変化や効果を捉えるために、教育委員会や管理職への聞き取り調査を実施するとともに、教員と同様の観点について地域の関係者に聞き取り調査を行った。 そのために研究協力校2校に対し、のべ18回の訪問を行った。これら以外に打ち合わせ等で数回訪問している。教員等への聞き取り調査は総計約40時間にのぼった。これら一連の調査結果から、前年度において明らかになった変化の実感が多くの教員について確認できた。とりわけ児童との関係づくりや学級づくりに教員が意識的に取り組むことで、集団行動の改善や児童同士の関係性の向上などにつながる傾向にあることが新たに把握できた。その一方で、不確実な要素(教職員体制の変更、課題のある児童等の存在など)の影響の大きさという課題も明らかになった。 なお、これら成果の一部については、日本教育行政学会第51回大会(平成28年10月9日、大阪大学)において口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では、平成28年度は前年度に「学校現況表」を作成した上で、①施策の直接的成果の分析、②施策が他の領域に与える影響や効果の分析を行う予定であった。前年度において「学校現況表」の作成には至らなかったため、その前段階に相当する教育効果の「チェック項目一覧」をもとに、更なるデータの収集に努めた。 これらの作業を実施するために、年度当初に調査協力校の管理職の協力を得て「チェック項目一覧表」(「学校現況表」の暫定版)を作成し、年度当初・年度途中・年度末の各定点で教員に児童および学校の様子を記述してもらうこととし、管理職の了承を得た。しかし実行に移してみると、想定以上の教員の多忙のため、十分な記述を得るのが困難であることが判明した。そのため急きょ聞き取り調査に切り換えたが、記述式に比べて時間的な制約がかかるため、当初予定していた量のデータを得ることができなかった。とりわけ教員や地域に関することについては、学校全体をカバーする「学校現況表」の作成に十分なデータが得られなかった。その一方で、重点的に聞き取りを行った学習指導や生活指導に関しては一定量のデータを得ることができた。 以上から、①については、前年度の成果と合わせて、諸施策が教員のレベルでは効果を実感できていることを確認できた。ただし、その児童への影響については十分に明らかにできなかったので、その点を考慮に入れて直接的成果の把握をさらに深める必要がある。②については、学校現場では諸施策と教員個人の実践が非常に複雑に絡み合っており、その分析にはより詳細な教員の活動の分析などさらなる調査が必要である。このように、諸施策の成果について一定の把握はできつつあるものの、児童等への影響までは十分に把握するには今少し時間を要する。また、地域関係者への聞き取り調査の分析がまだ十分にできていない点も、「やや遅れている」と判断する理由である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は最終年度を迎えるが、これまでの成果を踏まえ、比較的成果を把握しやすい①教科担任制、②少人数クラス制、③集団づくり・関係づくりに焦点をあてて分析を行うとともに、学校教育外の活動の影響を捉えるために、④児童たちが関わる地域の活動についての調査を行う。 ①については、教員の実感が実体を伴っているかどうか、すなわち児童等への影響・効果を把握するために、当該学年の児童、教科担任制を経験した卒業生、進学先の中学校に対する調査(聞き取りまたはアンケート)を実施するとともに、教員に対しては成果の具体例等の収集などを引き続き行う。②については、教員の行動を記録し、少人数になったことによって具体的に児童と向き合う時間がどの程度増加するかを推計する。また、③との関係で、授業等における児童への接し方(頻度、指導の仕方など)を観察するとともに、教員へのインタビュー調査を継続することで、通常規模のクラスとの異同について分析を行う。③については、授業中におけるグループ活動等を記録し、学年当初と学年末との比較を行うこと、教員へのインタビュー調査を継続することで、児童たちの集団形成や相互関係の変化を把握する。また、それが通常の発達によるものなのか、施策や教員の実践によるものなのかを、学級集団発達過程モデルや小集団学修のルーブリックなどを参考にしながら分析する。④については、地域の行事や課外活動に参加している児童たちや、そこに関わっている地域関係者および教員に対してインタビュー調査を行い、学校教育とは異なる領域の教育効果について把握を試みる。 以上の調査等を研究の中心に据えながら、学校の教育成果の測定につながる様々な質的データの収集に努めるとともに、関係する先行研究や理論を応用して分析を行うことで、学校の改善を示すことのできる質的エビデンスの提示方法の開発に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
「その他」で予定していたテープ起こしを外注せず、謝金の範囲内で実施したことで、この経費の支出が抑制されたためである。また、関係学会が近隣で実施されたことも理由の1つである。
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次年度使用額の使用計画 |
研究データ(平成28年度に収集した録音データのうち文字化が終了していない分および平成29年度に収集予定の録音データ)の文字化、その他データの整備・保存のために人件費・謝金等を要すると予想されるため、主としてこの作業に充てる予定である。
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