研究課題/領域番号 |
15K13180
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小野田 正利 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (60169349)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 近隣トラブル / 近隣苦情 / 学校と地域 / 少子高齢社会 / 騒音 / 保育所開設 / クレーム処理 |
研究実績の概要 |
1.昔から地域の学校として、ある程度は親しまれ、文化の拠点として位置づいてきた小学校や中学校でも、さらには待機児童対策で注目される保育園(幼稚園・認定こども園)に対しても、1990年代以後は急速に近隣住民からの苦情が増え始め、そのトラブル対応に苦慮していることが全国的に散見される。 2.こういった近隣トラブルを、学校の教職員はどのように思っているかを、逆に「一住民」という立場で考えた場合に、どのような意識を持っているかを問うた「学校・園と近隣住民との苦情・トラブルに関する質問紙調査(予備調査)」を5月から8月にかけて、研究代表者への依頼のあった全国約10箇所の講演先で収集した。約2000人ほどからのデータを、現在分析中である。 3.「公共性を錦の御旗」として振りかざすことも「先住民争い」をすることも、現代社会の学校・園の近隣トラブルの解決には役に立たない。また現実に困惑している状況に対する理解のない、当事者意識のない人たちから「寛容性がない」と片づけられることは問題をこじれさせることにつながる。ではどうしたらよいのか。これまでの研究の蓄積から言えるトラブルを少なくする方法は、次の2つではないかと想定している。一つは、当事者である「児童生徒たち」が、直接にその住民からの苦情・クレームと向き合いながら、折り合うべき可能な方策を探ることである。2つめは、学校や園も「地域に住まう者(組織・団体)の一人」として「町内会(自治会)に入ろう」ということにある。 4.これまで著してきたいくつかの論文を基にして、新たに執筆した原稿を加えた形で、広く世の中に研究成果を還元していくために、著作の執筆に取りかかり、研究代表者著『子どもは社会の迷惑か?~学校・園の近隣トラブル』(仮題)(時事通信出版社、2017年)の校正ゲラ段階まで到達している(2017年3月末現在)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.「研究実績の概要」の4で述べたように、研究成果の社会への発信としての著書『子どもは社会の迷惑か?~学校・園の近隣トラブル』(仮題)(時事通信出版社、約200頁)を上梓する準備が整って、その完成間近まできた。 2.同じく「研究実績の概要」の2で述べたように、教職員に対する「学校・園と近隣住民との苦情・トラブルに関する質問紙調査(予備調査)」のデータの中から、いくつもの知見を発見できつつあること。特に研究代表者が進めている「学校と保護者との間に生じるトラブル」との比較で、興味深い近隣トラブルの内容とその特色が見られる。 3.研究代表者の研究実績を聞きつけて、すでに昨年度に引き続き、学校と近隣住民との関係改善についての講演や学習会講師の依頼が、特に学校事務職員から寄せられ「大阪府学校事務研究会」(2016年11月2日)、「新潟県学校事務研究会」(2016年11月26日)で講演という形で発表したほか、研究代表者が加わった教員免許状更新講習において、また担当する教職科目「特別活動論」においても、このテーマで講義できるところまできた。 なお前者については講演録というフルペーパーで「学校と周辺住民とのトラブルをどう考えるか~「子どもの声は騒音かもしれない」という前提で始める良好な関係づくり~」というタイトルで『第25回大阪府公立学校事務研究大会記録集』に掲載されている。 4.さらに研究論文としては、日本教育経営学会編『現代の教育経営』第2巻『現代の教育課題と教育経営』に「第11章 学校が抱える近隣住民とのトラブルと新たな関係づくり ―学校も地域住民の一人である―」を執筆した(印刷中)。
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今後の研究の推進方策 |
1.著書『子どもは社会の迷惑か?~学校・園の近隣トラブル』(仮題)(時事通信出版社)は、6月初頭には発刊される予定なので、その反響や反応について、全国各地の著者が実施する講演先で確認しながら、新たな研究課題を模索する。 2.すでにいくつかの教育委員会からの要請もあるが、学校が抱える近隣トラブルの解消あるいは沈静化に関わる、教職員研修用のワークショップの開発を進めたい。学校近隣トラブルの主たる対応の学校での担い手は、教頭と学校事務職である。彼らがもつ対応能力の向上や関係改善の方策の提示につながる研修教材の創造が大切だと考えている。 3.学校近隣トラブルの主たるものの原因となっているのが「音」と「声」である。かねてから親交があり、研究遂行にアドバイスをもらっている橋本典久(前八戸工業大学大学院教授、音響工学)が、この3月に定年退職され、あらたにNPO法人「騒音問題総合研究所」を立ち上げられたので、橋本氏と連携しながら学校や園という施設の持つ、特有の音と声をめぐるトラブルの特徴と、その解決について研究考察を深めていきたい。 4.2015年6月6日に大阪大学人間科学部で開催したシンポジウム「学校・園と周辺住民とのトラブルをどう考えるか~教育施設の抱える近隣トラブルの特質と、良好な関係づくり」のまとめの冊子を刊行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.「学校・園と近隣住民との苦情・トラブルに関する質問紙調査(予備調査)」の準備は、科研費からの支出をせずに実施した。またそれ以外の研究においても、既存の図書資料をもとに遂行した。 2.このため2016年度に使用したのは、関連図書の購入費のみであった。
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次年度使用額の使用計画 |
1.2017年度は、学校・園の抱える近隣トラブルに関する研究論文を複数本執筆するほか、2015年6月6日に開催したシンポジウムのまとめの冊子の発刊、およ「今後の研究の推進方策」に示した内容の実行のための経費にあてる。
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