研究課題/領域番号 |
15K13209
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
西島 央 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (00311639)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 学校トイレ / 社会疫学 / 公衆衛生 / 学校環境衛生 / 上水道 / ザンビア |
研究実績の概要 |
平成28年度には、前年度に調べた、学校保健及び学校施設・設備の法制度の歴史的展開をふまえて、①学校建築上、学校のトイレがあった場所の確認、②教師の児童に対する衛生・健康面でのまなざしや指導の歴史的変遷を捉える資料の蒐集と考察、③アフリカの公衆衛生状況と学校の環境衛生状況の文献による把握の3点を主な目的としていた。 前年度の史料調査により、明治~昭和初期の学校日誌等が十分に保存・整備されていることがわかっている長野県に調査地域を限定して、第一に、長野県立歴史館に保存されている明治期の学校建築の図面から、学校のトイレの場所があったところを確認した。トイレの記入のない図面も多いが、記入がある場合、ほとんどが校舎の外にあることが確認された。トイレが校舎内に設置されるようになるのは、昭和以降、鉄筋コンクリート製の校舎が普及していくこと、下水道の整備・普及、屎尿を肥料として使わなくなっていったことなどが背景にあると思われる。 第二に、松本の開智学校、飯田の追手町小学校と座光寺小学校の3校の学校日誌、看護日誌を対象に、トイレの使い方に関わる記述等を調べた。非常に汚い使い方をしている記述が多々みられることがわかった。 第一点と合わせて考察した結果、学校の衛生環境の向上や健康面での指導には、トイレの使い方だけの問題ではなく、手洗いのできる設備の整備が関わっているのではないかという新たな仮説を導出した。そして、長野県の上水道の普及の歴史的変遷を調べた結果、都市人口集中地域では戦前から普及しつつあったものの、郡部等では昭和中期になって普及したことがわかった。 以上の日本の事例をふまえて、アフリカの公衆衛生状況と学校の環境衛生状況をどのように評価すればよいかを検討するには、文献を読む前に現地を見てみる必要があると考え、私費でザンビアを訪問し、6校の学校のトイレと水道の設置・使用状況を調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に書いたとおり、当初予定していた研究課題のいずれにも取り組むことができた。なかでも、本研究課題の問題関心である、学校の施設・設備の整備が児童の衛生・健康に影響しているのではないかという大きな仮説に関して、学校トイレだけでなく、上水道の整備が必要だったのではないかという新たな仮説を追加することができ、研究をより深め、広げることができた。 加えて、当初は文献調査だけにとどめる予定だったアフリカの公衆衛生状況と学校の環境衛生状況の検討に関しては、日本の調査をふまえて、現地を見てみる必要があるとの判断をして、私費でザンビアを訪問して、6校の学校のトイレと水道の使用状況を調査した。その結果、日本の事例を評価するうえでどういう観点から考察する必要があるのか、具体的なイメージをもつことができるようになった。 その点で、計画以上の成果を上げられているが、一方で日本の調査については、戦争の影響等もあり昭和になってからの学校文書資料が少ないため、資料の検討にあたって今ひとつ詰め切れていない点があることも否めない。
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今後の研究の推進方策 |
本調査研究課題の3年目で最終年度にあたる平成29年度には、第一に、前年度から引き続き、学校保健と公衆衛生に関する法制度と学校施設・設備の整備と教師の児童に対する衛生・健康面のまなざしや指導との三者関係の歴史的展開についての検討と考察を行う。その際に、これまでの学校トイレだけでなく、水道についても加えて検討したいと考えている。 第二に、その考察結果に関して、小学校の教諭や専門家に意見を求めるインタビュー調査を行う。 第三に、発展途上国での“衛生意識”形成のための教育開発援助への示唆に資する知見を導出する参考として、アフリカでの小学校見学を行う。当初予定のザンビアは28年度に訪問したため、他の国を訪問したいが、それは専門家や現地の関係者との調整のうえで決める。 第四に、以上の研究をふまえて、日本の学校教育に対しては「健康格差」の解消に、発展途上国の学校教育に対しては“衛生意識”形成に、それぞれ資する学校施設・設備等のハード面からの示唆となりうる知見を提出する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本調査研究課題は、日本の学校建築におけるトイレのあり方の発展と、子どもたちの衛生状況に対する教師のまなざしの誕生と変遷を、学校文書を通して検討することと、その知見をもって、発展途上国、中でも感染症が社会問題となっているアフリカの学校の環境衛生改善に資することを目的としている。 そのため、平成28年度は、主に前年度の調査等により収集した文書を用いて、学校建築上のトイレの場所の確認、児童のトイレの使い方等に関する教師の記述の確認を行った。その結果、既に入手した資料による手元での個人作業が大半で、旅費やその他の経費があまりかからずにすんだ。 また、研究期間の最終年度には、アフリカに学校調査に行くことを予定しており、3年間の総交付額を勘案したとき、初年度と第2年度は、使用額を抑える必要があった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、第一に、引き続き主に入手済みの資料の検討と考察を行う。必要に応じて、追加資料を入手する。また、学校の水道にまで関心を広げたことで、上水道が整備される前の校舎の水道の場所を確認するため、戦前に建てられた校舎などの見学をしたいと考えている。これらのための国内旅費を予定している。 第二に、アフリカの学校のトイレと水道の調査を行う。専門家のアドバイスや現地関係者との関係をふまえて、水道事情の大きく異なる2ヶ国を選び、各国5校程度を調査したい。国外旅費、謝金、その他の経費はそのための経費として予定している。
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