研究課題/領域番号 |
15K13216
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研究機関 | 九州保健福祉大学 |
研究代表者 |
登坂 学 九州保健福祉大学, 保健科学部, 准教授 (50308144)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インフォーマル教育 / ボランタリズム / インタラクション / 自己更新 / ファンコミュニティ |
研究実績の概要 |
最大の成果は上海でSNH48のファンに対するインタビューを実施し、そこから重要な知見を得たことである。 典型的事例として日本のAKBファンを経て後にSNHファンになったAさん(20代女性)のケースを紹介する。Aさんは高校生の頃(2009年頃)AKBの板野友美のファンとなった。きっかけはネットでAKB48の人気番組「AKBINGO」視聴したことであった(著作権上問題だが、中国では「字幕組」と呼ばれるボランティアが日本の人気テレビ番組を録画したものに素早く中国語字幕を付し次の日にはネット上にアップする)。アイドルに魅了されてからというもの彼女はCD(中に握手券や総選挙の投票券が封入されている)やグッズを買ったり、総選挙の投票のための募金活動(応援会が投票券入りCDを大量購入するため資金調達活動を行う)に身を投じることとなる。SNHには既に約10万元(≒170万円)を消費した。 アイドルグループのファンになって日常生活や意識に何か変化はあったか、との問いに「娯楽生活が豊富になった」とし、「微力だとしてもアイドルのために自分の力を尽くしたいと思う」ようになったと述べた。また「ファンコミュニティは一つの社会のようで、一人の学生にとって、前もって社会に足を踏み入れたようなものだと思う。少しビジネスのやり方を学んだし、他者への接し方や処世術を学んだ。」と述べた。ボランタリズムと社会性が涵養されたのである。 「劇場」や「アイドル」とは何かとの問いに「劇場は自分にとって同好会のラウンジだ。ここで多くの人に出会ったし、皆は同じ趣味を持っていて、同じアイドルを応援して一緒に様々な思い出を作れたからだと答えた。「アイドルは私にとって一種の信仰、ブラスのエネルギーをもたらす信仰。彼女の成長を見ていると、私はとても幸せな気持ちになる。」コミュニティは「居場所」であり「自己肯定感」を醸成するのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
インタビュイーの数が相当不足している点。その理由は、インタビューに応じてくれるアイドルファンが当初予想していたよりも少なかったからである。そもそもこのインタビューが「学術目的」である点や同意書等の格式張った書類の存在が敬遠されていると感じる。一見すると肩の凝らない趣味の領域に係る調査研究であるにもかかわらず、以上の諸点が実証データの収集を難しくしていると感じるのである。 経験から言えば、世間から一般的に「オタク」と呼称され、自らもそれを自認するアイドルのコアなファン層は、その実、必ずしも研究者目線での論評や考察を好まない。そのため、経験から、フォーマルなスタイルの対面調査はやりにくいと感じることとなった。また、海外研究であるという点や中国の特殊事情を考慮に入れると、国内における倫理的配慮及び手続きがうまく噛み合わないことも多い。 とはいえ実証データとして使用可能なインタビュー記録が作成できたのは決して小さくない成果であったと思料する。
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今後の研究の推進方策 |
より一層ファンコミュニティの持つ社会教育的機能と意義を実証データ(インタビュー調査)明らかにすることである。そこで重要な思考的枠組みは「インフォーマル教育」という概念である。インフォーマル教育とは労働、家族、レジャーなどの日常活動の結果としての学習をいう。フォーマル教育やノンフォーマル教育のように構造化されておらず、一般的には認証取得を目的としていない点を特徴とする。インフォーマル教育は意図的にもなり得るが、多くのケースでは意図的な学習ではないのである。 本年度は研究計画延長後の真の最終年次となるため、積み残した課題を完成させる。その中心は昨年度までと同様上海におけるフィールドワークである。 つまり、継続的に、1)上海音楽谷(Shanghai Music Valley)開発状況の観察、2)その中核をなすSNH48星夢劇場及び各チーム公演の参観、3)アイドルグループのファンへのインタビュー(目標数10名)実施、4)アイドルグループの映像・音声資料(総選挙演説)の入手および読解作業、5)応援会の一大イベント(アイドルメンバーの生誕祭)に係る資料入手、6)ファンサイト(ブログ、中国版ツイッター)の縦覧・資料収集・分析、7)以上活動における収集資料の整理、8)以上の実証データ収集に基づく論文執筆・学会報告及び出版、である。
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次年度使用額が生じた理由 |
【当該助成金が生じた状況】1)旅費について、年三回の海外フィールドワークを実施予定であったが、校務多忙となり実施できず、付帯する出張経費が未執行となったため。2)同じく旅費について、国内学会で今一度発表する予定であったが、研究の遅延により実施できず、付帯する出張経費が未執行となったため。3)物品費について、研究テーマに関連する書籍の購入が遅滞したため。4)当該年度においては、研究代表者が担当する教職課程の課程再認定の準備年にあたり、教育学関連の他のテーマの論文を執筆する必要があったため、エフォートをそちらに振り向けたため。 【使用計画】上記の各項目に関連し、未執行の計画を速やかに実行したうえでデータ収集を急ぎ、論文を執筆し、出版に漕ぎつける。
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