研究課題/領域番号 |
15K13224
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
田中 伸 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (70508465)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | カルチュラル・スタディーズ / 文化研究 / 社会科教育 / シティズンシップ教育 / 市民性教育 / サブカルチャー |
研究実績の概要 |
本研究は、日本で行われている文化学習の改革を目指すものである。我が国の文化学習は、教科書等に掲載された、「価値があるとされる」文化、文化財、及び文化現象を無批判に理解・受容する実践が多い。これを文化受容学習と呼ぶ。本研究の目的は、①文化受容学習の批判的分析、②特定文化が「価値あるもの」とみなされる社会的・政治的な文脈の分析、③文化受容学習の改革案としての文化研究学習論の開発・実践・検証である。上記3点を通して、文化研究に基づく新しい文化学習論を開発、提案することを目的とする。 本研究は、文化研究の論理に基づく社会科文化学習論を解明することである。本研究の計画は、子どもが持つ文化認識、及び教師や教科書等が前提とする文化認識の齟齬を分析し、文化を「価値あるもの」と意味付ける政治的・社会的背景を分析する。その上で、具体的な文化現象(文化財)を批判的に分析する学習モデルを開発・実践・検証し、文化研究学習論を提案するものである。上記を目的とした研究方法は、①先行研究分析、②文化意識調査、教育内容/開発、③文化研究に基づく文化学習論のモデル開発、④開発したモデルの検証、という4段階を設定する。 本年度は、主に①、②を並行して進めた。分析・調査結果を踏まえ、小学校社会科単元「ドラえもんから考える国づくり」を作成し、小学校にて実施した。作成した単元は、第1に民主主義制度の批判的分析、第2に主権者意識の育成を意図した。本単元は、従来の社会科教科書を基盤としたものではなく、漫画「ドラえもん」を用いた。本授業で用いたストーリー「のび太の地底国」では、民主的な手続きを経て独裁者が出現する状況が描かれている。本単元は、子どもに身近な漫画「ドラえもん」が描く民主主義を分析し、漫画の内容と自身と結びつけて考え、国づくりのあり方及び「おまかせ民主主義」を批判的に分析することを目指した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採択時における予算の削減に伴い、本年度は先行研究の分析、及びモデル授業の開発に努めた。先行研究の分析では、民主主義論、現代思想、若者文化に係る文献を用いて、子どもの社会認識に基づく教材研究の方法を探究した。その成果を生かし、本年度は、民主主義を用いた小学校段階を対象としたモデル授業を開発・実践し、当該授業及び文化学習論を検証した。 本授業は以下2つの目標を設定した。第1は民主主義制度の批判的分析である。子どもたちは、民主主義国家のなかに生きており、ほとんどの子どもはみんなで話し合って決定することが正しいという認識をもっていた。しかしながら、民主主義は民主的手続きを踏むことで、結果として独裁的状況を生む可能性を内包している。民主主義が採る民主的手続きを批判的に吟味し、民主主義のメリット・デメリットを分析した。 第2は主権者意識の育成である。現在多くなされている政治学習は、主に制度や仕組みについての学習が多く、その方法は説明型の授業形態をとることが多い。そのような学習では、制度理解は進むものの、社会へ自ら参画する意識を持つ学習へ至っていない。あくまでも自らを政治の外側に置き、制度を理解している場合が多い。このような学習が継続されてきた結果、現在の日本では、選挙の投票率の低さが大きな課題となっている。政治を身近に捉え、政治を主体的に考える学習が求められている。本単元は、漫画「ドラえもん」を用いる。今回取り上げるストーリー「のび太の地底国」は、民主的な手続きを経て独裁者が出現する状況が描かれている。本単元は、子どもに身近な漫画「ドラえもん」が描く民主主義を分析し、漫画の内容と自身と結びつけて考え、国づくりのあり方及び「おまかせ民主主義」を批判的に分析することを目指した。
|
今後の研究の推進方策 |
第1に、前年度に引き続き、文化意識の調査、および教育内容分析(教科書、実践の分析)を行う。その上で、文化研究学習論として一定のモデル作成を試みる。 第2に、本年度も引き続きモデル実践を行う。取り上げる文化は、前年度(民主主義論)とは異なる文化事象を扱う。具体的には、特定の事象を文化とみなす政治社会的背景を分析するなど、文化へ一定の価値意識(高尚なる文化とみなす考え方)を付与する権力作用等を調査・分析する。その上で、当該文化を研究する社会科授業を開発する。なお、開発した授業は、初等中等学校で実践し、その効果を検証する。 なお、万が一、当初予定していた研究が順調に進み、文化研究学習論のモデルを構築し、当該モデルに基づく教育実践を12月までに実施出来た場合、2年目に外国人研究者招聘事業を実施し、モデルを専門家を交えて公の場で検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
採択時において申請時よりも減額が行われていた。その結果、毎年の海外調査、及び2年次もしくは3年次に予定している外国人研究者の招聘が不可能な金額であった。そのため、本年度は主に先行研究等の文献研究、及びモデル授業の実践へ切り替え、助成額の一部を次年度に繰り越し、次年度以降、申請時の計画を着実に執行できる様努めた。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度は、前年度の繰越金を用いて、申請書に記載したとおり初年時に予定していた海外調査(英国を予定)を行う予定である。また、万が一、当初予定していた研究が順調に進み、文化研究学習論のモデルを構築し、また当該モデルに基づく教育実践を12月までに行うことが出来た場合、3年次に予定していた外国人研究者招聘事業を本年度実施し、モデルを専門家を交えて公の場で検証する可能性がある。
|